研究課題/領域番号 |
23590039
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高木 俊之 独立行政法人産業技術総合研究所, 幹細胞工学研究センター, 主任研究員 (10248065)
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キーワード | 擬環状脂質 / 含フッ素脂質 / バクテリオロドプシン / 膜タンパク質 / ペルフルオロアルキル基 / 単分子膜 / 二分子膜 / ベシクル |
研究概要 |
本研究では、安定人工脂質膜の設計・機能評価、膜タンパク質ハンドリング剤の設計・機能評価、人工脂質・膜タンパク質複合化、複合体の機能性基板への固定化・機能評価により、安定な脂質・膜タンパク質複合体を利用したバイオセンサの開発研究を行うことを目的としている。 人工脂質として含フッ素擬環状型人工脂質を提案し、含フッ素擬環状人工脂質の合成経路の確立(高純度・高収量で多種多様な脂質群の合成可能な経路探索)を行った。 二鎖型炭化水素系(天然型)脂質の含フッ素化体、擬環状型炭化水素系脂質および同じ炭素骨格を有する含フッ素擬環状脂質(親水基はホスホコリン基)の合成を試みた。まず初めにアルキル鎖の炭素鎖長14のDMPCの含フッ素脂質合成を検討し、アルキル鎖末端にペルフルヘキシル基(F6)およびペルフルオロオクチル基(F8)を導入できる高効率な合成経路を確立した。炭化水素系擬環状脂質の合成経路を基に含フッ素擬環状脂質合成を行い、最終目的物を得ることに成功した。 合成した含フッ素脂肪酸(F4, F6, F8)の界面特性評価として表面圧-面積等温線(Π-A等温線)測定により単分子膜挙動を観察した。F4とF6はLE相、F8はLC相を形成して崩壊する興味深い結果を得た。さらに膜タンパク質バクテリオロドプシン(bR)の再構成基材としての有用性として、含フッ素脂質膜へのbRの再構成条件の検討を行い、bRの光サイクルについて検討した。天然紫膜から可溶化したbRを含フッ素化脂質(F4-DMPC)に再構成することに成功した。この再構成bRは膜が流動状態であっても天然紫膜と同様に3量体を形成し、天然紫膜bRに近い光サイクル挙動を示した。光サイクルの中間体の寿命が10倍程度長くなることも分かり、膜タンパク質の機能・安定性が周囲の脂質膜の物性に依存する明確な例を示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
含フッ素擬環状型人工脂質の基本構造(基準物質)となる擬環状型炭化水素系脂質の合成は合成スキーム通りに進めることができた。擬環状型人工脂質へのフッ素部位の導入においては、反応条件の検討、精製時の分離条件の検討など種々の検討事項が増えたことより手間取ったが、最終目的物である含フッ素擬環状型人工脂質の合成に成功した。また、二鎖型ホスホコリン脂質の基礎物性情報が擬環状型人工脂質の物性測定を解析するにおいて必要であることが分かり、二鎖型リン脂質の合成およびそれらの物性測定も同時に検討している。二鎖型含フッ素脂質への膜タンパク質(bR)の再構成に成功し、bRの光サイクルの解析にも成功したことからおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の合成条件および試行錯誤の経験を基に、含フッ素擬環状型(フッ素導入量の変更)およびその比較対照となる炭化水素系擬環状型脂質を対として合成する。また、擬環状型脂質を検討する上で必要な二鎖型リン脂質の検討も同時に行う。さらに種々の機器測定による界面特性評価を行い、膜タンパク質再構成膜として利用できる高配向秩序で適度な膜流動性を有するマトリックスを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
目的化合物合成に必要な有機試薬および有機溶媒、実験器具(ガラス器具など)の購入、物性測定時に必要となる測定用試薬(分析用試薬、洗浄溶媒など)の購入を予定している。また、得られた成果を学会で発表する経費も計上している。
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