本研究では、安定な脂質・膜タンパク質複合体を利用したバイオセンサの開発研究を行うことを目的としている。古細菌の生体膜の主成分である向かい合う二本鎖リン脂質分子がアルキル鎖末端の分子間共有結合により二量体化した構造を持つ環状リン脂質の擬環状化(Pseudo-cyclicphosphatidylcholine:PC-DTPC)およびフッ素化(PC-F-DTPC)、またこれらの脂質から成る膜タンパク複合体の調製および安定性評価を試みた。 膜流動性に興味深い影響を及ぼすペルフルオロブチル基(F(CF2)4基:F4)に着目し、F4を含む含フッ素擬環状リン脂質(PC-F4-DTPC)を合成し、それから再構成した膜タンパク質バクテリオロドプシン(bR)の構造および機能評価により、長期および熱安定性について検討した。 PC-DTPC およびPC-F4-DTPC へのbR の再構成は、いずれの脂質においても、70%以上の高い収率で再構成試料を得ることができた。それらの再構成bRの集合状態は、可視円二色性分光法(CD)から天然紫膜と類似したCDスペクトルを示したことより、bRの三量体構造を形成していると考えられる。また、再構成bRの熱安定性試験において、加熱前後のCDおよびUV-VISスペクトル測定を比較することで評価した。PC-F4-DTPCから成る再構成bRでは、①液晶相にも拘わらず再構成bRの変性がほとんど見られず、さらに、②CDスペクトルにおいては70度付近まで負のピークが観測されたことより、70度付近までは天然紫膜と同様にbRの三量体構造を保持している、ことが分かった。従って擬環状リン脂質(PC-DTPCおよびPC-F4-DTPC)は天然紫膜と同様の環境を提供し、さらに長期および熱安定性においても同様に安定化させることが分かった。
|