研究課題/領域番号 |
23590040
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
根矢 三郎 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (10156169)
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キーワード | 人工酸素運搬物質 / ミオグロビン / ポルフィリン異性体 / コルフィセン / 酸素結合能 / 有機ナノチューブ |
研究概要 |
人工血液は、輸血者の減少傾向に対応できるだけでなく、輸血による感染症や血液型不一致などの問題も解消できる切り札になる。しかし、期限切れ血液から得たヘモグロビンを使うカプセル型人工赤血球などでは、血管収縮作用や心筋損傷などの重篤な副作用が報告されている。 申請者はヘモグロビンと類似構造をもつが、より安定なミオグロビンを用いた人工酸素運搬物質を開発する研究をすすめている。ミオグロビンは酸素親和性が強すぎで、結合酸素を放出しないといわれている。しかし、酸素結合部位である鉄ポルフィリンの分子構造を変換した鉄ポルフィリンを使うと酸素親和性が低下して、ミオグロビンが酸素を放出できるようになることを研究の過程でみつけた。このために、台形分子である鉄コルフィセンとよばれる物質を開発し、ミオグロビンを再構成すると酸素解離定数は37mmHgとなり、ミオグロビンにヘモグロビンなみの酸素運搬能力をもたせることに成功した この結果はすぐに注目されることとなり、平成25年3月に横浜で開かれた日本薬学会第133年会でのシンポジウム「元素から見た生命活動研究の新展開」で採択され招待講演として発表した。会場からは、多くの関連質問を受けた。実際にミオグロビンを使う場合に、そのソースをどこに求めるのかという質問には、馬や牛などの動物で食肉以外の部位からの調達が考えられるとの回答を行った。また、ミオグロビンのヘムの入れ替え操作の実験方法についても質問があり、これには、大量に行うことも容易であり、技術的な難点はないと答え、納得していただいた。今回の講演内容は総説としてMolecules (2013)18, 3168-3182に論文発表し、研究進展の様子を公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では人工酸素運搬物質開発に向けて二つの提唱をしている。ひとつは、ミオグロビンの補欠分子を改変して酸素酸素放出能を上げる(=酸素親和性を下げる)こと、および人工補欠分子族で再構成したミオグロビンを有機ナノチューブに封じ込めることである。 前者の計画は順調に進み、ミオグロビンの酸素親和性を下げる人工ヘムを見つけることができた。このヘムはコルフィセンとよばれる異性体分子であり、従来は有機化学的観点から興味をもたれている分子である。これをミオグロビンに組み込んで、酸素親和性を測定する生化学的な応用は今回が初めてである。当初は、この人工ヘムをアポミオグロビンを混ぜると沈殿物となり、うまく再構成できなかった。しかし、再構成時のpHや温度を選択すると、沈殿せずにうまく再構成できることをみつけた。現在、この計画をさらに進展させている。 一方、有機ナノチューブの合成であるが、小スケールでの予備実験は昨年度の報告で述べたように、うまく進めることができた。しかし、数グラムオーダーでの合成を試みると、反応が順調に進まず、不純物の多い標品しか得られなかった。電子顕微鏡での観察によると、チューブ構造と非晶質の混ざり合った物質であることが判明した。これを再結晶などで精製することをこころみたが、高分子量のナノチューブの結晶化は難しく、溶媒や結晶化温度の選定に手間取っている。その他、ゲル濾過法になどによる精製も試みているが、芳しい結果は現在えられていない。この問題は、有機ナノチューブの前駆体であるβ-D-グルコピラノシルアミンの純度にも原因があると考えられため、その精製にも力を入れている。また、もう一つの有機ナノチューブ原料であるN-tetradecyl-glycylglycine hydrochrorideの合成も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
ミオグロビンの酸素親和性を下げて人工酸素運搬物質にする試みのうち、人工ヘムを用いる研究は順調に進展している。有力候補物質であるコルフィセンを見つけたが、他のポルフィリン異性体についても探索を進めている最中である。最近では、天然ポルフィリンであるプロトポルフィリンにコバルトを入れミオグロビンに再構成すと配位子親和性が大きく低下することを見つけている。この方法を使えば、人工ヘムを有機合成することなく、市販の天然ヘムが使える利点がある。コバルトヘムは鉄ヘムと同様に酸素結合能をもつので、ミオグロビンをもちいた人工酸素運搬物質の開発に利用できる可能性がある。そこで、コバルトヘムで再構成したミオグロビンの機能や構造の研究を進める予定である。 また、ミオグロビンを包み込む分子容器である有機ナノチューブについては、その前駆体であるβ-D-グルコピラノシルアミンの高純度標品の合成に尽力する予定である。さらに、もう一つの有機ナノチューブ原料であるN-tetradecyl-glycylglycine hydrochrorideの合成も進めている。これは、前者の大量合成ができなかった場合の代替策である。既報の文献による合成法を試みても、実験条件の詳細がないため、必ずしも再現性のある結果が得られないた。チューブ化に必要な温度、溶質濃度、溶媒蒸発速度などの検討は今後も継続する必要がある。自己集合した凝集物が、積層体や細片ではなくナノチューブ構造をとるには、きわめて複雑な過程が必要であると追われている。ミオグロビンのゲストとして応用できる、均一な内径と長さをもつナノチューブを得るための条件探しを続け、申請目的の推進に向けた研究をすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には110万円の直接経費を申請している。その使途として、試薬やガラス器具などの研究用消耗品費として80万円を見込んでいる。また、成果発表のための国内学会出張費に10万円、海外学会出張費に20万円を予定している。
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