研究課題/領域番号 |
23590056
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
森下 まり子 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (70257096)
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研究分担者 |
高山 幸三 星薬科大学, 薬学部, 教授 (00130758)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリー / バイオ医薬 / 吸収促進 / バイオアベイラビリティ / インスリン / 経口投与 |
研究概要 |
本研究では、細胞膜透過ペプチド:CPPを利用したバイオ医薬の非侵襲的デリバリーシステムの創製を確立し、それらについて実際の臨床開発を行うために、その橋渡しとなる研究を遂行することを目的とするが、本ストラテジーは、これまでの多大な基礎研究成果の末に生まれた優れたシーズであり、完成の暁に得られる総合的な社会的貢献度は計り知れないと考えている。 CPPはターゲット分子と化学的に架橋して用いられることが一般的であるが、これまでに我々は、CPPをバイオ薬物と物理的に混合するだけでバイオ薬物の経粘膜バイオアベイラビリティ(BA)を著しく上昇させることをin vivoで明らかにした。この手法は簡便であり、またターゲット分子の薬理活性にほとんど影響しないという利点がある。また、CPPの効果は分子間相互作用に基づくことを表面プラズモン共鳴法により詳細に明らかにすることで、最適なデリバリーシステム創製への基礎を確立した。一方、この吸収促進メカニズムについてはまだ詳細には明らかになっておらず、平成23年度の研究計画ではまずその点を主に解明することを目的とし、in vitroの実験から多くの知見を得ることができた。この成果は今後実際製剤の処方最適化を行うにあたって、大変有用性が高いと考えている。 また、我々はバイオ薬物の経粘膜BA enhancerとして特に作用の強いCPPとして、R8およびペネトラチンを見出してきたが、本研究では人工ニューラルネットワークに基づいたin silico解析を導入して新規のBA enhancer 素子の探索を試みた。その結果、天然のペネトラチンより3倍吸収促進作用の強いCPPが見いだされた。これらの成果は、次年度の研究計画を遂行する基礎的知見としてに十分に利用価値の高いものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に計画した研究のうち、1)CPPによるバイオ薬物吸収促進機構の解明については、Caco-2細胞を用いて詳細な検討を行い、CPP自身の透過はほとんどなく細胞分画に留まること、バイオ薬物の吸収促進作用は粘膜側から優位に起こること、また、その作用は低濃度ではエネルギー介在、高濃度では非エネルギー介在により吸収促進していることを明確に示すことができ、これらの結果はヘルシンキで開催された国際学会HDR2011 Congressおよび日本薬物動態学会第26年会で発表をした。 2)新規BA enhancer素子の探索については、数10種類のCPP構造改変体を合成し、分子軌道法による構造計算、分子間相互作用、吸収促進活性等の情報をin silico解析し、CPPの構造記述子と吸収促進効果との関連性を明らかにすることができた。この情報をもとに天然のCPPより強力な配列を見いだし、それを動物実験により実証した。これらの研究は論文化が終わり、今現在は論文誌に投稿中である。 3)実施可能な非侵襲的デリバリーシステムの創製については、投与経路を経口投与として研究を開始した。今までの処方の中でもっとも優れたものを用い、まず溶液で投与実験を始めたところ、有効性の著しく高い結果が得られたため、シンプルな製剤設計でも十分に効果が出せることが期待されている。これらの結果に基づき、今後、粉末製剤化を視野に入れて処方の最適化を試みる。 また、平成24年度からは毒性試験をマウスを用いて開始するため、経鼻投与法をマウスで確立し、これまでのラットにおける結果の再現性を確認することが出来た。このことからすみやかに毒性実験を開始することが可能である。以上のように、平成23年度は予定した研究をすべて遂行し、また来年度の実験計画の準備も進めることが出来ていることから(2)概ね順調に進展している、と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、概ね順調に研究を実施出来たため、平成24年度はまず、1)実施可能な非侵襲的デリバリーシステムの具体的な創製に着手する。凍結乾燥した粉末製剤化、スマートハイドロゲルマイクロ粒子(poly(methacrylic acid) grafted with poly(ethylene glycol))あるいは東レ株式会社と開発中の逆ミセル型高分子ナノ粒子(生分解性両親媒性ブロックポリマー、Poly(ethylene glycol)-poly(ε-caprolactone):(PEG-PECL)を基材とするナノ粒子)を候補製剤とし、CPPとバイオ医薬を適用するキャリアとしての有効性をin vitroおよび in vivoで検討する。 また、本研究計画の中で一番重要な2)毒性試験をマウスを用いて開始する。これについては、CPPを単回および慢性投与後の粘膜(鼻および消化管)の組織学的評価および単回および繰り返し投与後(30日)の毒性試験で、(1)単回投与後24または48時間後および2週間反復投与後組織検査、(2)In vivo投与毒性試験(単回および反復投与):単回投与(雌雄各5匹×4群(対照・低・中・高用量))および30日間反復投与(雌雄各10匹×4群(対照・低・中・高用量))を行う。いずれも死亡数、一般状態、体重変化、生化学検査、解剖検査よりCPPの毒性を質的および量的に検討する予定である。 さらに、CPPによる吸収促進機構の解明については、引き続き細胞実験により検討を進める。さらに、次年度に予定している3)新規インスリン非侵襲的デリバリーシステム投与後のインスリン体内動態のPETイメージングによる解析についても、試験製剤を用いて予備実験を行うなど、本試験への準備を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本計画における研究費の使途については、当初は備品に関しては所属教室に備わっているもので対応可能であると考えていたが、研究代表者が研究機関を異動したため、新たにプレートリーダーを購入することとなり、予定されていた消耗品の購入を次年度に回すことになった。そのため平成24年度は、消耗品の購入を中心とし、主要な支出は、毒性試験用動物、各種バイオ薬物の購入、バイオ薬物血中濃度測定のためのキット、細胞膜透過ペプチドの合成委託費用、各種in vitro実験並びに動物実験にかかる消耗品費である。バイオ薬物はそれ自身が高額であり、また、血中濃度測定はエンザイムイムノアッセイで行うためこれも高額である。また、細胞膜透過ペプチドはすべて合成委託となるため高額であり、消耗品費の大部分はこれらのタンパク質・ペプチドを購入することに充当される。また、毒性試験において、組織検査の依頼を行う。 さらに、成果発表費用として研究論文の英文校閲費用、および学会での成果発表費用として国内旅費を計上した。
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