本年度の研究成果:酵母輸送タンパク質Emp46p/47pのコイルドコイル領域(Emp46c/47c)にドナー、アクセプターとなる蛍光タンパク質を融合し、ヘテロ複合体形成を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により検出する方法を用いて速度解析を行った。その結果、ヘテロ複合体の形成過程は2重指数関数で近似でき、得られた速度定数の温度依存性から、会合反応の活性化エネルギーを算出することができた。変異体解析においては、Emp46cのコイルドコイル内面に唯一存在する酸性アミノ酸残基E303をグルタミン残基に置換した変異により、pH非依存的なヘテロ複合体形成が生じることを見出した。この変異に加えて300番目にヒスチジン残基を導入した変異体では、pHの低下により複合体の解離が生じること、また、その変化のpH領域は野生型と比べて高pH側にシフトしていることが判明した。このような会合解離特性は、細胞内の各コンパートメントのpH測定に、より適したものといえる。 研究期間全体を通した研究成果:本研究では、Emp46p/47pが示すホモ-ヘテロ会合変換のメカニズムを解明し、pH応答性バイオ素子への応用を試みた。その結果、コイルドコイル領域のみで、pHに依存した可逆的な会合解離特性を発現させることが可能であることを明らかとした。さらに、Emp46cのE303近傍に対して変異導入を施すことにより、ヘテロ複合体形成のpH依存性を様々に変化させることに成功した。この他、蛍光タンパク質融合体を利用したFRETにより、ヘテロ複合体の形成をリアルタイムに観測する手法を確立した。 以上のように、本研究によりEmp46c/47cを細胞内pHバイオセンサーへ応用するための技術基盤を構築することができた。
|