研究課題
申請者は、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)がElongin B/C-Cullin 5-SPSB型E3ユビキチンリガーゼ(ECS(SPSB))によりポリユビキチン化され,プロテアソーム依存的に分解されることを明らかにしたが,この新規iNOS分解系の生理的意義は不明である.そこで,iNOS分解系の生理機能を明らかにするために,平成23年度はECS(SPSB)機能不全マウスの作出にとりかかった. ECS(SPSB)の基質認識サブユニットであるSPSBは、iNOSのN末端部分(アミノ酸22-27番)に結合するため,この部分を含むiNOSのアミノ酸1-118部分(iNOS(1-118))を過剰発現させると,iNOSとSPSBの結合が競合的に阻害され,その結果,iNOSのユビキチン化とプロテアソーム依存的分解が抑制される.この成果を利用して,iNOS(1-118)を全身の細胞で過剰発現するトランスジェニックマウス(Tgマウス)の作出を進めた. Tgマウス作出用の発現プラスミドには,ヒトβ-actinプロモーターとSV40 polyAから構成されるpFRTZベクター(PNAS, 93, 6191-6196, 1996)を用いた.iNOS(1-118)のC末端にFLAGタグ配列を付加したcDNA配列をpFRTZにサブクローニングした.得られたコンストラクトをHEK293T細胞に遺伝子導入して発現を確認した.続いて,このコンストラクトをマウスマクロファージ細胞系列のRAW264.7細胞に遺伝子導入し.LPS刺激により発現誘導されたiNOSの寿命が著しく長くなることを確認した. 以上の結果から,このコンストラクトにより発現するiNOS(1-118)-FLAGはECS(SPSB)の機能を抑制し,トランスジェニックマウスの作出に使用可能であることが確認された.
2: おおむね順調に進展している
H23年度の研究計画の最重要達成課題であったECS(SPSB)の機能不全マウス作出用のコンストラクトの作製とその機能確認が完了した.当初の計画では,作製したコンストラクトを企業に送り,Tgマウスの作出まで進める予定であったが,平成23年10月1日付けで北海道大学大学院医学研究科から岡山大学大学院医歯薬学総合研究科へ異動になったことから,異動先において新たに遺伝子組換え実験や動物実験の再申請を行う必要が生じたため,Tgマウス作出まで至らなかった. しかしながら,異動先において,Tgマウス作出後に行う各種実験の準備を進めることができたことから,本申請研究はおおむね計画通りに研究が進展しているものと判断する.
平成24年度は,前年度に作製したTgマウス作出用の発現コンストラクトを企業(日本SLC)に送り,Tgマウスの作出を委託する.遺伝子は,C57BL/6の受精卵に導入し,仮親もC57BL/6とする. 得られたTgマウスの全身でiNOSのアミノ酸1-118部分が発現していることを,抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティングにより確認する.具体的には,各種臓器(脳・心臓・肺・胃・肝臓・腎臓・脾臓・膵臓・腸・各種リンパ節・睾丸・卵巣など)及び各種細胞(各種血球系細胞・血管内皮細胞・血管平滑筋細胞・骨髄細胞,並びに骨髄細胞を分化させて得られるマクロファージや樹状細胞など)から細胞抽出液を調製し,抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティングを行う.続いて,TgマウスにおいてiNOS蛋白質の寿命が延長されることを確認する. Tgマウスの全身の細胞でiNOSのアミノ酸1-118部分の発現が確認されたら,このTgマウスを用いて,細胞内寄生細菌に対する感染防御におけるiNOS分解系の機能解析,敗血症の発症及びその病態形成におけるiNOS分解系の生理的役割の解明,さらには免疫系の発達におけるiNOS分解系の機能解析を行う予定である.
1.トランスジェニックマウスの作出:60万円2.実験用動物:10万円3.生化学・分子生物学実験用試薬及び器具:30万円4.細胞培養用試薬・器具:20万円
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
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