研究課題
アドレナリンα2B受容体(Aα1BR)を材料とし、糖鎖修飾の無いGPCRの小胞体内における品質管理の解析を進めている。この受容体の164番目システイン殘基の変異体は形質膜には発現せず、小胞体に蓄積し、ERADにより分解処理されることを昨年確認した。今年は、この変異体に品質管理機構の重要因子の1つであるOS-9が結合していることを確認した(免疫共沈実験)。またsiRNAを用いたOS-9のノックダウン実験から、異常Aα1BRの分解にOS-9が関与することを示唆した。OS-9はレクチン様蛋白であり、品質管理の際に糖鎖を認識するとされているが、Aα1BRは糖鎖修飾を受けないことから、糖鎖に依存しない未知の品質管理機構の存在が示唆された(H24年度日本生化学会にて発表)。現在、OS-9の変異、欠失実験よりAα1BRとの結合領域を解析中である。ロイコトリエンB4受容体(BLT1)のリン酸化修飾とユビキチン化の意義について解析を進めた。Phos-tag SDS-PAGE法を駆使し、BLT1のリン酸化解析を行った結果、この受容体にはC末端に7箇所のリン酸化修飾部位が存在し、うち5つはリガンド刺激前からリン酸化されており(basal)、残り2箇所がリガンド刺激依存的(inducible)にリン酸化されることを決定した。これら修飾の意義、特に、basal修飾については、受容体トラフィッキングへの影響も含めて解析中である(H24年度日本生化学会にて発表)。また、ユビキチン修飾に関しては、小胞体で合成された直後に付加されることから、膜への移送に関わると推察している。現在、この修飾の意義を知るために責任ユビキチンリガーゼの同定を酵母2-ハイブリッド法(スプリットユビキチン法)で行い、BLT1結合タンパク質群の中から候補ユビキチンリガーゼを見いだしたところである。
2: おおむね順調に進展している
糖鎖修飾非依存的な小胞体内品質管理機構の存在を示唆することができ、ロイコトリエンB4受容体については新しい技法を取り入れてリン酸化部位を確度の高いデータで決定することが出来た。GPCRのリン酸化修飾がリガンド刺激前からbasalに起こっている知見は未だ報告例がない。また、ユビキチン修飾に関しては、酵母2-ハイブリッド(スプリットUb法)を駆使してBLT1結合タンパク質のスクリーニングを実施し、同定した結合タンパク質の中に興味深いユビキチンリガーゼを見いだすことが出来た。以上の結果は、今後の本研究遂行上、非常に大きな成果である。
本課題は、GPCRの表在量制御において有益な知見をえることにある。トラフィッキングや表在時間は修飾によって制御されることが推察される。H25年度は最終年度として、3つの課題、(1)GPCRの小胞体内品質管理機構の解明(小胞体搬出)、(2)BLT1のbasal & inducibleなリン酸化の意義(形質膜局在量)、そして(3)BLT1のユビキチン修飾と責任リガーゼの決定、および、その意義(形質膜への輸送)に関してそれぞれをまとめ、論文として社会に発信する。こうした翻訳後修飾は、小胞体からの輸送量、形質膜への局在時間(寿命)、そして、リサイクリング/分解制御に深く関わり、GPCR表在量調節に深く結びつく知見と考える。得られた知見から新しいGPCR制御薬開発のコンセプトが提示できるよう、研究を発展させていきたい。
次年度受領額の範囲内で上記方策の研究を進める計画である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件)
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