マトリックスメタロプロテナーゼ13(MMP13)は骨・軟骨の主基質であるコラーゲンを分解する酵素であり、我々は本酵素の遺伝子欠損マウス(MMP13KO)を世界に先駆けて作製した。これまでに、MMP13KOでは悪性黒色腫細胞の増殖と転移が起こりにくいことを見出してきた。本課題では、種々の癌種の転移と腫瘍形成において、宿主が産生するMMP13の関与を明らかにすることを目的とした。 本年度はヒト由来癌細胞を用いた骨転移・肺転移と固形腫瘍形成の評価とMMP13阻害剤の投与実験系の確立を行った。ヒト乳癌およびヒト前立腺癌細胞をヌードマウスに移入後に転移観察を行った。その結果、癌細胞を移入したヌードマウスでは顕著な肺転移と骨転移を起こし、骨転移巣では骨吸収亢進による骨破壊をマイクロCT解析により認めた。肺転移巣では、肺実質の破壊と癌細胞増殖が確認された。これら転移局所では、コラーゲン分解が促進され、転移の発生ならびに骨及び肺破壊が著しく亢進した。 癌細胞移入マウスを用いたIn vivoイメージング解析では、骨破壊に伴った血管新生の亢進を観察した。メカニズム解析では、上記のヒト癌細胞を用いた検討において、MMP13産生、VEGF産生、FGF産生は全て亢進し、血管管腔形成および癌細胞の浸潤活性の亢進はIn vivo試験と同様の傾向を示した。さらに、骨の器官培養実験を用い、MMP13阻害剤の効果を検証した結果、癌の転移に誘起される骨吸収と骨破壊がMMP13阻害剤の投与により抑制傾向を示した。これら結果より、本研究課題では、転移能を有する癌細胞転移系を用いたメカニズム解析法を確立し、癌骨転移におけるMMP13の関与が示された。これら知見により、MMP13阻害剤の創薬展開への可能性が示唆され、本課題は当初の計画以上に研究が進展した。
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