研究課題/領域番号 |
23590070
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
佐藤 武史 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (30291131)
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研究分担者 |
古川 清 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (10190133)
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キーワード | 転写因子 / がん / 悪性形質 / 腫瘍形成 / 細胞運動 / 糖鎖 / 糖タンパク質 / シグナル伝達 |
研究概要 |
昨年度の研究成果から、A549ヒト肺がん細胞においてSp1をノックダウンすると、対照細胞に比べて分子量120 KのE-カドヘリンで糖鎖修飾が変化することを見出した。この糖鎖修飾の変化に関わる糖転移酵素を同定するために、リアルタイムPCRにより糖転移酵素遺伝子の発現を定量的に解析した。その結果、Sp1ノックダウン細胞では糖鎖のガラクトシル化に関与するβ-1,4-ガラクトース転移酵素 (β-1,4-GalT) ファミリーの中で、β-1,4-GalT I遺伝子の発現が対照細胞に比べて有意に低下した。そこで、β-1,4-GalT I遺伝子のプロモーター領域を単離し、その塩基配列を解析した。その結果、このプロモーター領域にはSp1結合部位が2ヶ所存在し、これらの部位がSp1のノックダウンによるβ-1,4-GalT I遺伝子の発現抑制に関与している可能性が示唆された。Sp1ノックダウン細胞では細胞運動能が対照細胞に比べて著しく低下するが、E-カドヘリンに対する機能阻害抗体を用いた実験から、運動能の抑制にE-カドヘリンが関与することが判明した。昨年度の研究成果から、Sp1ノックダウン細胞の腫瘍形成能は対照細胞に比べて著しく低下していた。そこで、Sp1ノックダウン細胞が形成する腫瘍やその周辺組織を観察した結果、対照細胞に比べて血管新生が著しく抑制されていた。さらに、腫瘍血管の新生を誘導する血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) に着目して、Sp1の発現制御による腫瘍形成の抑制のメカニズムの解明を試みた。VEGFの遺伝子発現及び培養液中への分泌量は、対照細胞に比べてSp1ノックダウン細胞で有意に低下した。本研究から、Sp1の発現制御によるE-カドヘリンの糖鎖修飾の変化に加えて、Sp1ノックダウン細胞ではVEGF産生・分泌の低下によって腫瘍血管の新生が抑制されて腫瘍形成能が低下したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、ヒト肺がん細胞から樹立したSp1ノックダウン細胞の腫瘍形成能及び細胞運動能の解析、糖鎖修飾の変化に関わる糖転移酵素の同定、及びその酵素遺伝子のプロモーター領域の単離を行なった。現在、同定した糖転移酵素遺伝子のプロモーター領域に存在するSp1結合部位に変異を入れて、どのSp1結合部位が、この酵素遺伝子のプロモーター活性に関与しているかを解析中である。また、ヌードマウス皮下に形成された腫瘍やその周辺の新生血管の状態を観察し、Sp1ノックダウン細胞では対照細胞に比べて血管新生が抑制されることを見出した。さらに、腫瘍血管の新生に関わるVEGFの遺伝子発現、及び培養液中への分泌量を定量的に解析し、Sp1の発現制御による腫瘍形成能の抑制メカニズムの解明を試みた。以上の研究成果から、研究目的を、おおむね順調に達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Sp1の発現制御によって糖鎖修飾が変化したE-カドヘリンに着目して、この分子が関わるSp1ノックダウン細胞の運動能の抑制メカニズムを解明する。β-1,4-GalT I遺伝子のプロモーター領域のSp1結合部位に着目して、Sp1のノックダウンによるβ-1,4-GalT I遺伝子の発現抑制のメカニズムを明らかにする。Sp1のノックダウンによって、がん細胞の増殖、浸潤や転移を制御するEGF受容体-MAPキナーゼ経路に関わるシグナル伝達分子の発現量及びリン酸化レベルの変化の有無を解析する。ヒト肺がん細胞以外のがん細胞から樹立したSp1ノックダウン細胞を用いて、糖鎖修飾の変化の有無を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費が生じた状況:実験の効率化を図った結果、当初使用を予定していた研究費を一部使用することなく、平成24年度の研究実施計画をおおむね達成できた。 翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画:幾つかの研究実施計画について、より詳細に解析するため、また平成24年度から継続している研究実施計画があるので、翌年度以降に請求する研究費と合わせて使用する。
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