研究課題
本研究では、転写因子Sp1の発現制御による糖鎖修飾の変化と、がん細胞の悪性形質の発現との関係を分子レベルで明らかにした。これまでの研究成果から、A549ヒト肺がん細胞においてSp1をノックダウンすると、対照細胞に比べて分子量120 KのE-カドヘリンで糖鎖修飾が変化することを見出した。さらに、Sp1ノックダウン細胞では細胞運動能や腫瘍形成能が著しく低下した。最終年度では、始めにE-カドヘリンとこの分子の裏打ちタンパク質であるβ-カテニンに着目して、Sp1のノックダウンによる細胞運動能の低下のメカニズムの解明を試みた。その結果、Sp1のノックダウンよるE-カドヘリンのN-型糖鎖修飾の変化によって、E-カドヘリン/β-カテニン複合体の形成が促進される一方、β-カテニンのリン酸化が抑制された。従って、Sp1のノックダウンによるこれらの変化によって細胞運動能が低下した可能性が考えられる。次に、ガラクトシル化に関与するβ-1,4-ガラクトース転移酵素 (GalT) I遺伝子の転写制御機構に着目して、この遺伝子の発現が低下するメカニズムを解析した。その結果、この遺伝子のプロモーター領域に見られる2ヶ所のSp1結合部位に変異を導入すると、対照に比べてプロモーター活性が約60%低下した。従って、β-1,4-GalT I遺伝子の転写活性化にはSp1結合部位が重要な役割を果たしており、Sp1のノックダウンによってβ-1,4-GalT I遺伝子の発現が低下することが明らかになった。さらに、Sp1ノックダウン細胞ではEGFレセプターの下流のc-Raf、MEK1/2とMAPキナーゼのリン酸化が低下することが判明した。以上の結果から、Sp1のノックダウンによる糖鎖修飾の変化に加えて、EGFレセプターからMAPキナーゼへのシグナル伝達が減弱することでA549細胞の悪性形質が抑制されるという新しい知見が得られた。
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Glycobiology
巻: 24 ページ: 532-541
Cancer Gene Therapy
巻: 21 ページ: 印刷中