研究課題/領域番号 |
23590076
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
土屋 創健 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (80423002)
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キーワード | microRNA |
研究概要 |
食道扁平上皮癌の臨床サンプル(n = 82)におけるmicroRNAの発現量を網羅的に正常組織と比較したところ、発現量が有意に異なるmicroRNAとして、miR-B(以下、各microRNAのIDは仮名)、miR-Lをはじめとする複数のmicroRNAを同定した。しかしながら、食道扁平上皮癌やその他のがんにおけるこれらのmicroRNAの機能・役割はまったく不明である。microRNAは相補配列依存的にmRNAの3’UTRに結合し、その標的mRNAの分解もしくは翻訳を阻害することにより機能を発揮することから、食道扁平上皮癌における機能・役割及びそのメカニズムを明らかにするために、まずこれらのmicroRNAの食道扁平上皮癌特異的な標的mRNAの同定を行った。食道扁平上皮癌細胞株、KYSE-170に上記の合成microRNAをそれぞれ導入した際の網羅的なmRNA発現量変化を捉え、それぞれの導入により発現量が低下し、さらに3’UTRにこれらのmicroRNAの標的となりうる塩基配列を有するものだけを抽出したところ、それぞれmiR-B:18個、miR-L:17個、miR-S:6個、miR-T:4個、miR-U:4個の標的候補mRNAを見いだした。同定された上記の標的遺伝子の機能等を解析した結果、癌細胞の増殖や遊走に関与する可能性が示唆されたことから、まず、細胞生存・増殖の指標であるWST-1 assayを用いて癌細胞の増殖に及ぼす影響を調べたところ、miR-L、miR-T、miR-U(いずれも癌組織で発現低下)の導入によりそれぞれ食道扁平上皮癌の細胞増殖が有意に阻害されることを見いだした。さらに、トランズウェルを用いて癌細胞の遊走活性評価系を構築し、miR-B(癌組織で発現亢進)が癌細胞の遊走を促進すること、miR-S(癌組織で発現低下)は遊走を抑制することを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は3年計画の2年目に該当し、本年度において網羅的に同定された標的RNA候補から発癌や悪性度への関与が予測された項目(遊走・浸潤、再発性・薬剤抵抗性等)に対してmicroRNAの導入もしくは機能阻害によりmicroRNAのがんにおける役割を実験的に検証・同定する計画であった。その結果、本年度において、miR-L、miR-T、miR-Uが癌細胞の増殖を有意に抑制すること、miR-Bは癌細胞の遊走を促進し、miR-Sは逆に抑制することを見いだした。従って、本研究課題は計画に沿って順調に進行しており、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに癌細胞の悪性度の関わるmicroRNAとその標的RNA候補の網羅的な同定を行った。当初の計画通り、今後は標的RNA側からの解析を行い、microRNAがどのRNAの発現を制御して癌細胞の悪性度に関与するのかを明らかにすることにより、その作用メカニズムを解明するとともに、食道扁平上皮癌における新たな治療標的・診断候補分子を見いだす。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額に関しては次年度の予算とあわせて、癌の増殖・悪性度への関与が見いだされたmicroRNAの標的遺伝子に対する機能・役割の解明(siRNAを用いたノックダウン実験や発現誘導によるgain of function解析等)と、新規分子標的・診断マーカー候補としての有用性評価のために適切に使用する計画である。
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