本研究課題では、これまでに、食道扁平上皮癌の臨床サンプル(n = 82)におけるmicroRNA発現量を正常組織と網羅的に比較し、発現量が有意に異なるmicroRNAとして、miR-B(以下、各microRNAのIDは仮名)、miR-Lをはじめとする複数のmicroRNAを同定した。microRNAの作用はmRNAの3’UTRに相補配列依存的に結合して分解もしくは翻訳を阻害することにより発揮されることから、これらのmicroRNAの食道扁平上皮癌特異的な標的mRNAを同定したところ、それぞれmiR-B:18個、miR-L:17個、miR-S:6個、miR-T:4個、miR-U:4個の標的候補mRNAを見いだした。同定されたこれらの標的遺伝子の機能等を解析した結果、癌細胞の増殖や遊走に関与する可能性が示唆されたことから、まず、細胞生存・増殖の指標であるWST-1 assayを用いて癌細胞の増殖に及ぼす影響を調べたところ、miR-L、miR-T、miR-U(いずれも癌組織で発現低下)の導入によりそれぞれ食道扁平上皮癌の細胞増殖が有意に阻害されることを見いだした。さらに、トランズウェルを用いて癌細胞の遊走活性評価系を構築し、miR-B(癌組織で発現亢進)が癌細胞の遊走を促進すること、miR-S(癌組織で発現低下)は遊走を抑制することを見いだした。くわえて、以上の中で最も顕著な効果を発揮したmiR-Sに着目し、その作用メカニズムの解明を行った結果、siRNAを用いたノックダウン実験より、細胞外分泌に関わる2種のmiR-S標的遺伝子が癌細胞の遊走を促進することを明らかにし、食道扁平上皮癌細胞が細胞外分泌システムを利用して自身の遊走能を促進している可能性を新たに見いだした。
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