研究課題
本研究の目的は、周辺の細胞や細胞外マトリックス、IgEといった微小環境の因子が、組織に分布するマスト細胞の分化、機能獲得を制御するメカニズムを解明することである。今年度は以下の成果を得た。1)皮膚型マスト細胞への成熟に伴い、IgEを介する抗原刺激により生じるIL-6、TNF-αといったサイトカイン産生レベルが顕著に低下する。一方で、同様の刺激による脱顆粒応答は大きく変化せず、ポリカチオンやサブスタンスPに対する応答性を獲得する。以上の結果は、マスト細胞は成熟に伴い、その刺激応答性をダイナミックに変化させることを示唆するものである。2)マスト細胞と線維芽細胞の共培養において、線維芽細胞のヒアルロン酸合成をヒアルロン酸合成酵素-2のノックダウンにより抑制すると、共培養過程におけるマスト細胞の増殖は3-4倍に増大した。成熟過程におけるマスト細胞の増殖にはCD44が必要であるが、ヒアルロン酸により形成されるマトリックスにはむしろマスト細胞の増殖を制限する機能があることが推察された。3)単量体IgE作用をもつIgEクローンSPE-7を感作し、24時間後に抗原刺激を行う系において、感作濃度が高いほど抗原刺激時の脱顆粒応答が低下することが分かった。この現象は単量体IgE作用の弱いクローンIgE-3では認められなかった。また、JNK阻害剤であるSP600125処理によりこの低下は回復することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
計画した研究項目の中では、想定以上に進捗したものと、予想よりは遅れているものがあるが、全体として見た場合はおおむね順調であると判断している。
当初の計画に従い、進捗の遅れている項目に重点をおいて研究を推進する。1)成熟マスト細胞の刺激応答性について、抗原刺激以外の刺激因子についても引き続き検討し、また刺激応答性のダイナミックな変化が生じるメカニズムについて解析する。2)マスト細胞の成熟を制御する転写因子の候補について、強制発現系、ノックダウン等の手法により解析を行う。3)IgE感作により起こるシグナル伝達に着目し、抗原刺激時の脱顆粒応答低下のメカニズムを解析する。
計画通り消耗品費を中心に研究費を使用する予定である。
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Biol. Pharm. Bull.
巻: 35 ページ: 408-412
10.1248/bpb.35.408
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~tanaka-s/