研究課題
本研究の目的は、周辺の細胞や細胞外マトリックス、IgEといった微小環境の因子が、組織に分布するマスト細胞の分化、機能獲得を制御するメカニズムを解明することである。今年度は以下の成果を得た。1)骨髄由来培養マスト細胞を幹細胞因子(SCF)存在下、線維芽細胞と共培養することにより得られる皮膚型マスト細胞への分化の過程で、抗原刺激時、あるいはリポ多糖刺激時の炎症性サイトカイン産生が顕著に低下することが明らかとなっている。そこで、抗原刺激時のシグナル伝達について、共培養の前後で比較を行ったところ、成熟マスト細胞では、(1) Sykのリン酸化応答の顕著な低下、(2) IkBのリン酸化応答の顕著な低下、(3) Aktのリン酸化レベルの低下、 (4) ERK、JNKのリン酸化応答の低下がそれぞれ認められた。2)皮膚型マスト細胞への成熟過程で誘導される転写因子Gfi1、あるいは発現低下が認められるGfi1bの遺伝子を、マウスマスト細胞株MC9にそれぞれ安定発現した細胞株を作成した。SCF存在下、あるいはさらにSwiss 3T3細胞との共培養を行った場合で、様々な分化指標の変化を調べたところ、ヒスタミン合成酵素の誘導にはGfi1bの発現が必要であり、トリプターゼの誘導ではGfi1、Gfi1b両者の発現が必要であることが示唆された。3)単量体IgE作用をもつIgEクローンSPE-7の感作では、感作濃度が高いほど抗原刺激時の脱顆粒応答が低下するという現象を見いだし、JNKの感作時の活性化がこの反応に関わることが既に示唆されている。JNKの活性化作用を有するアニソマイシン処理を行うと、単量体IgE作用の弱いクローンIgE-3においても抗原刺激時の脱顆粒応答の低下が認められた。
2: おおむね順調に進展している
計画した研究項目の中では、想定以上に進捗したものと、予想よりは遅れているものがあるが、全体として見た場合はおおむね順調であると判断している。
当初の計画に従い、進捗の遅れている項目に重点をおいて研究を推進する。1)成熟マスト細胞の刺激応答性について、SykをはじめとするFcεRI下流のシグナル伝達が減弱するメカニズムを解析し、あわせてこうしたシグナル応答の減弱が脱顆粒応答に大きな影響を与えない理由を明らかにする。2)IgE感作により起こるシグナル伝達に着目し、引き続き抗原刺激時の脱顆粒応答低下のメカニズムを解析する。
計画通り消耗品費を中心に研究費を使用する予定である。
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