リン脂質のオルガネラ間輸送やオルガネラ内輸送は、生体膜の形成・機能維持に必須の反応である。しかし現在、膜脂質の細胞内輸送に関与する遺伝子やタンパク質に関する情報は極めて少なく、これらの同定・解析が、生体膜の形成・機能維持機構の解明に急務を要する重要な研究課題となっている。酵母のミトコンドリア内膜には、ホスファチジルエタノールアミン(PE)とカルジオリピン(CL)合成経路が存在するが、これら経路によりPEあるいはCLが生合成されるためには、その前駆体リン脂質がミトコンドリア外からミトコンドリア内膜に輸送される必要がある。一方近年、酵母は、ミトコンドリアのPEとCLの合成経路がそれぞれ損傷しても生育に異常を示さないものの、両者の合成経路が同時に損傷すると致死になることが示された。そこで本研究では、PE合成経路の遺伝子PSD1と相互作用し、CL合成に必要なリン脂質のミトコンドリア内膜への輸送に関与する遺伝子の同定を試み、その候補を多数同定することに成功した。 それら遺伝子群(GIP(Genetic Interactor of PSD1)genes)の機能解析を進めたところ、GIP4遺伝子が欠損するとCLのレベルが低下し、その生合成前駆体のリン脂質が蓄積することが判明した。GIP4の機能解析をさらに進めたところ、この遺伝子産物がミトコンドリア内膜に局在することが判明し、また、ミトコンドリア内膜におけるリン脂質の横断輸送に関与することが示唆された。さらに、GIP4の産物と構造の類似したタンパク質をコードするGIP5もGIP4と類似した機能を持つことが示唆された。 また、GIP3が欠損した細胞では、ホスファチジルセリン脱炭酸酵素2(Psd2)の活性がほとんど検出されなくなることも見出し、この原因が、Psd2遺伝子の転写の著しい低下であることも明らかにした。
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