研究課題/領域番号 |
23590085
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
長田 茂宏 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (40263305)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / クロマチン / ヒストン / アセチル化 / メチル化 / 発がん / 発がん防御 |
研究概要 |
がんは遺伝子変異により起こることが明らかにされているが、エピジェネティクス(DNA配列変化を必要としない遺伝子機能制御)制御異常を考慮したがん化機構の解明も必要とされている。特に発がん初期におけるエピジェネティクス制御異常と細胞がん化の関係は不明な点が多い。細胞がん化は細胞形質転換の促進と発がん防御機構の破綻の両面から解析する必要がある。本研究においては肝前がん病変で発現上昇するエピジェネティクス制御因子が細胞がん化・防御に与える影響を解析し、細胞がん化機構を解明する。 発がんとともに発現上昇する腫瘍マーカーをコードする遺伝子のプロモーター活性を、エピジェネティクス制御に関与するヒストンメチル化酵素が上昇させることをこれまでに明らかにしている。今年度において、腫瘍マーカーの発現を正に制御する転写因子とヒストンメチル化酵素が試験管内において相互作用する可能性を見出した。さらに、この転写因子はヒストンメチル化酵素の細胞内局在変化に影響を及ぼす可能性が示された。このヒストンメチル化酵素の局在変化は細胞がん化過程においても観察されることから、今後その分子機構を解析する。発がんを誘発する化合物を介したこれらの因子の局在変化をあわせて解明することは、細胞がん化の促進および防御の解明につながると考えられる。 発がん初期に発現上昇するエピジェネティクス制御に関与する因子のひとつとして、コアヒストンに類似のヒストンバリアントを同定している。このヒストンバリアント遺伝子のプロモーター解析により、がん遺伝子産物がこの遺伝子のプロモーター活性を制御する可能性を見出した。また、発がん初期に発現上昇するクロマチン関連遺伝子の酵母対応遺伝子の相互作用因子の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発がん初期に発現上昇するクロマチン関連因子に関する解析をその因子の発現制御、局在変化、細胞内機能の面から行っている。 ヒストンバリアント発現制御機構について、線維芽細胞、胎児肝由来細胞、肝がん由来細胞においてプロモーター解析を行い、細胞種に依存しない発現に関与する発現制御領域の存在を明らかにした。また、ある種の肝がん由来細胞において、ヒストンバリアントの発現を正に制御する領域が存在することを明らかにした。その領域には転写因子をコードするがん遺伝子産物の結合認識配列が存在した。また、調べた細胞の中で、肝がん由来細胞において、このがん遺伝子の発現が最も高いことが示された。 クロマチン制御因子の細胞内局在については、発がん初期に発現上昇するヒストンメチル化酵素を中心に解析した。蛍光タンパク質を融合させたヒストンメチル化酵素や免疫染色の解析により、ヒストンメチル化酵素の核局在に影響を与える要因について解析した。部分欠失変異体を用いた解析により、このヒストンメチル化酵素には核移行シグナルや核からの排出に関わる領域は存在しないと考えられた。しかし、発がんの促進、防御の両方の機能を持つ転写因子との共発現がヒストンメチル化酵素の核移行を導く可能性が示された。 発がんの促進・防御には細胞死の制御が大きく関与する。クロマチン関連因子の機能が細胞がん化に与える影響として、細胞死に関与するヒストン脱アセチル化酵素と相互作用する因子を発見した。上記の成果が得られていることから、計画は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
個々の因子の機能解析だけではなく、相互作用を考慮した解析により、クロマチン関連因子が細胞がん化の促進・防御に与える影響を解明する。これまでの過剰発現系による解析に加えて、より効率的な発現抑制を確立した上で解析を進める。より効率的な発現抑制系の確立のために導入方法の最適化を図り、エピジェネティクス制御因子の発現抑制による影響を検討する。 ヒストンバリアントの発現制御の解析については、がん遺伝子産物の結合認識配列に変異を導入した変異体を用いた解析、およびがん遺伝子産物のクロマチン局在を検討する。 発がん促進だけでなく防御にも関与する転写因子とヒストンメチル化酵素との相互作用の可能性が示されたことから、この相互作用が局在に与える影響を検討する。加えて、この転写因子の標的遺伝子に存在するヒストンのメチル化状態にヒストンメチル化酵素が与える影響を解析する。 細胞のがん化には損傷を受けた細胞の細胞死からの回避が重要な要因のひとつとして挙げられる。また、栄養飢餓やDNA損傷により誘発されるオートファジーはがん化に働くだけでなく、がん化の抑制にも働く。すなわち、がん化過程の時期により、発がん促進・防御の両方に関与する。発がん初期に発現上昇する因子のがん化における役割を解明するために、これらの現象におけるヒストンバリアントを中心としたクロマチン関連因子の役割を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験条件の適正化の過程で効率的な実験条件が見出され、次年度使用額が生じた。この条件で効率的に解析を進めることにより、発展的な解析が可能となり、更なる詳細な解析を行う。 ヒストンバリアントの発現制御の解析については、プロモーター活性の制御機構の解析に加えて、がん遺伝子産物の抗体を用いたクロマチン免疫沈降法により、がん遺伝子産物のクロマチン局在を検討する。さらに、発がんに関与する刺激に対する細胞内情報伝達とがん遺伝子産物を介したプロモーター活性制御との関係を検討する。 転写因子とヒストン修飾因子の相互作用については、それぞれの因子の部分欠失変異体を用いることにより、相互作用に必要な領域の同定を試みる。また、相互作用に必要な領域と局在変化との関係を解析する。加えて、DNA損傷などを誘発させる要因がこれらの因子の局在変化に与える影響を検討する。 細胞がん化の促進・防御に関わる生命現象として、細胞死に関与するアポトーシスやオートファジーがある。オートファジーが栄養飢餓やDNA損傷により誘導されることが報告されているが、これまでに肝がん由来細胞においていくつかの系によりオートファジーを誘導・検出することを可能にしている。アポトーシスやオートファジーにヒストンバリアントが与える影響を解析するとともに、これらの現象に発がん初期に発現上昇するクロマチン関連因子が与える影響についても検討する。
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