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2012 年度 実施状況報告書

発がん初期に発現上昇するクロマチン関連因子の細胞がん化・防御に与える影響

研究課題

研究課題/領域番号 23590085
研究機関名古屋市立大学

研究代表者

長田 茂宏  名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (40263305)

キーワードエピジェネティクス / クロマチン / ヒストン / アセチル化 / メチル化 / 発がん / 発がん防御
研究概要

がんは遺伝子変異により起こることが明らかにされているが、エピジェネティクス制御異常を考慮したがん化機構の解明も必要とされている。特に発がん初期におけるエピジェネティクス制御異常と細胞がん化の関係は不明な点が多い。細胞がん化は細胞の形質転換の促進と発がん防御機構の破綻の両面から解析する必要がある。本研究においては肝前がん病変で発現上昇するエピジェネティクスを制御する因子が細胞がん化・防御に与える影響を解析し、細胞がん化機構を解明する。
発がん過程における防御機構は、細胞周期の停止、アポトーシスの誘導など、複数が存在する。オートファジーと呼ばれる自食作用(自己貪食)もそのひとつである。オートファジーにより、細胞内の不必要なタンパク質が除去されることにより、活性酸素の産生が抑制されることが発がんの抑制につながる。一方、がん化した細胞の栄養供給にオートファジーが関与することから、オートファジーはがんの促進にも関与する。そこで、発がん過程に発現上昇するエピジェネティクスを制御する因子の、オートファジー誘導過程における発現変化を検討した。ラット胎児肝臓由来細胞にラパマイシン添加のオートファジー誘導過程において、ある種のヒストンメチル化酵素の発現は変化しなかったが、ヒストンバリアントのひとつが、RNAレベルで減少することが明らかとなった。
発がん初期に発現上昇するエピジェネティクス制御に関与する因子のひとつとして、コアヒストンに類似のヒストンバリアントを同定している。このバリアントには、数アミノ酸異なる他のアイソフォームが存在する。これらのアイソフォームの機能や発現制御の違いはほとんど明らかにされていない。ヒト子宮頸がん由来細胞および肝がん由来細胞を用いた解析により、これらのアイソフォームの発現制御機構はこれらの細胞間で異なることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

発がん初期に発現上昇するクロマチン関連因子に関する解析をその因子の発現制御、細胞内機能の面から行っている。
発がんの促進、防御の両面に関与する現象であるオートファジー誘導過程において、ヒストンバリアントの発現が減少することを明らかにした。オートファジー誘導時におけるエピジェネティクス変化は不明な点が多く、ヒストンバリアントの役割は明らかにされていない。このヒストンバリアントも細胞増殖の促進の面では細胞がん化の促進に寄与する機能を持っているが、腫瘍マーカー発現に対しては負の作用を示す。オートファジー誘導時に、ヒストンバリアントが発現変化することを明らかにしたことは、エピジェネティクス制御因子の発がんに対する促進・防御の分子機構の理解に役立つと考えられる。
上記ヒストンバリアント発現制御機構について、ヒト子宮頸がん由来細胞および肝がん由来細胞を用いることにより、アイソフォームによりその発現制御機構が異なることが示された。このことは、機能の違いが不明であったヒストンバリアントのアイソフォームのがん細胞における役割の理解に役立つ。また、片方の遺伝子はTATA-boxを含み、他方は含まないなどの特徴がわかり、制御機構が異なることが予想され、機能の相違点の解明に役立つ情報が得られている。
発がん過程において発現上昇するヒストン修飾因子の協調作用の解析において、二種類のヒストン修飾酵素とがん化促進に関与するβ-カテニンとの相互作用が明らかとなった。この結果は、転写共役因子として機能するβ-カテニンを介したがん化機構に、発がん初期に発現上昇する複数のヒストン修飾酵素が関与することを意味している。
上記の成果が得られていることから、計画は概ね順調に進んでいる。

今後の研究の推進方策

オートファジーの誘導経路は複数あり、様々な情報伝達分子が関与する。ラパマイシンによるオートファジー誘導経路において、ヒストンバリアントの発現変化が明らかになった。その他の誘導経路における発現を検討することにより、オートファジーの現象全般に関与するか、ラパマイシンによる経路特異的な変化であるかが明らかとなる。さらに、正常細胞とがん細胞における役割を比較・検討することにより、発がん促進に対して働いているか、防御的に働いているかが明らかとなる。上記ヒストンバリアント以外に、ヒストン(脱)アセチル化酵素、ヒストンメチル化酵素が発がん過程において発現変化することを明らかにしている。これらの因子のオートファジー誘導過程における発現変化を解析し、発現変化があった因子のオートファジーにおける役割を明らかにする。また、これらのヒストン修飾因子が標的とするヒストンの化学修飾変化を解析する。解析については、細胞内全体のグローバルな変化とオートファジー関連遺伝子の発現制御領域の局所的な変化の両面から解析する。
これまでに、発がん過程において発現上昇するヒストンアセチル化酵素とメチル化酵素の協調作用がプロモーター活性に与える影響も解析してきた。それに加えて、他のヒストン修飾酵素との協調作用ががん関連遺伝子の発現に与える影響についても検討する。また、上述のオートファジーに関与するクロマチン関連因子が複数存在した時はそれらの因子の協調作用がオートファジーに与える影響を検討する。
異なる遺伝子によりコードされる、数アミノ酸のみ異なるヒストンバリアントの発現制御が子宮頸がん由来細胞と肝がん由来細胞で異なることを明らかにした。今後制御機構をさらに詳細に解析し、特に、がん遺伝子産物が与える影響を解析する。

次年度の研究費の使用計画

上記解析に必要な消耗品に研究費の多くを費やす。今年度の研究過程において、実験条件の適正化の過程で効率的な実験条件が見出され、次年度使用額が生じた。この適正、かつ効率的な実験条件で解析を進め、目的の達成を目指す。
オートファジーに関する解析については、複数の条件による誘導法を解析する。また、オートファジーの誘導の確認にタンパク質分解酵素阻害剤を用いた解析も行う。オートファジー誘導過程におけるクロマチン関連因子の発現については、逆転写反応産物の定量PCRおよびウエスタンブロット解析により検討するので、それらの反応に必要な試薬を消耗品として購入する。
ヒストン修飾酵素の協調作用に関する検討において、相互作用については抗体を用いた免疫沈降実験を行う。また、標的遺伝子の発現については、逆転写反応産物の定量PCRにより行う。標的遺伝子の発現制御領域におけるヒストンの化学修飾変化については、メチル化ヒストンを認識する抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験により解析する。遺伝子発現以外に与える影響については、がん細胞の特徴である細胞増殖、軟寒天培地における足場非依存的増殖能、創傷修復に与える影響を検討する。
遺伝子発現制御領域の解析として、プロモーター領域の各種欠失変異体を作製し、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより行う。また、がん遺伝子産物の関与については、コトランスフェクション実験を行うほか、クロマチン免疫沈降実験によりがん遺伝子産物の発現制御領域への結合を検討する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2012

すべて 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [学会発表] ラット肝がん細胞株を用いたヒストンバリアントH2A.Zのプロモーター解析2012

    • 著者名/発表者名
      新海大智
    • 学会等名
      日本病院薬剤師会東海ブロック・日本薬学会東海支部合同学術大会2012
    • 発表場所
      岐阜
    • 年月日
      2012-11-18
  • [図書] 第7章 がんと転写因子 「がん増殖と悪性化の分子機構」(宮澤恵二・伊東進 編)2012

    • 著者名/発表者名
      長田茂宏
    • 総ページ数
      pp. 93-102
    • 出版者
      化学同人

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公開日: 2014-07-24  

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