研究課題/領域番号 |
23590086
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
柳川 芳毅 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (20322852)
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研究分担者 |
松本 眞知子 北海道医療大学, 薬学部, 准教授 (70229574)
富樫 廣子 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (20113590)
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キーワード | ストレス / インターロイキン-33 / 免疫系と神経系 / TLR7 |
研究概要 |
免疫系と神経系は互いに連携し,生体の恒常性維持において重要な役割を果たしている.また,免疫系と神経系における相互調節機構に異常が起これば,様々な疾患の発症につながると考えられる.本研究課題においては,免疫系と神経系で働く新しい分子機構の解明を目的として,“免疫系からのアプローチ”と“神経系からのアプローチ”を行っている.前年度においてはその実績として,ストレス関連カテコラミン(ノルアドレナリン,アドレナリン)がアレルギー増悪因子であるインターロイキン-33(IL-33)の発現を劇的に上昇させることを見出した(Yanagawa et al, Brain, Behavior, and Immunity 2011).この発見は,ストレスとアレルギー疾患との関係を解明する手がかりとなり,アレルギー疾患の新たな治療戦略につながる可能性がある.今年度は,この現象がマクロファージ細胞株であるRAW264.7細胞においても短時間で起こることを見出した.マクロファージ細胞株を使用することにより,遺伝子ノックダウンなどの分子生物学的手法による解析が容易となり,分子レベルでの解明が進むものと考えられる.一方これとは別に,免疫系と神経系で働く分子機構として,TLR7を介したマウス文脈的恐怖記憶の新たな制御機構を見出した(Kubo and Yanagawa et al, Pharmacol Biochem Behav. 2012).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では,“免疫系と神経系で働く新しい分子機構の解明”を目的としている.この研究課題の遂行過程において,ストレス関連カテコラミンであるノルアドレナリンやアドレナリンが,アレルギー増悪因子であるIL-33の発現を樹状細胞において劇的に上昇させることを見出した(Yanagawa et al, Brain Behav Immun. 2011).さらに,この現象をヒントに我々は,炎症性メディエーターであるプロスタグランジンE2が,樹状細胞におけるIL-33の産生を上昇させることを発見している(Yanagawa et al, Immunol Lett. 2011).さらに,これらの現象は,マクロファージ細胞株RAW264.7においても確認された.一方,免疫系と神経系で働く新しい分子機構として,脳内TLR7を介したシグナルが,マウス文脈的恐怖記憶を増強することを見出した(Kubo and Yanagawa et al, Pharmacol Biochem Behav. 2012).この現象は,ウイルス感染時の状況を,好ましくない状況として記憶し,その状況を回避するための機構を反映しているのかもしれない.すなわち,免疫系と神経系は情報伝達物質や受容体を共有し,それらの分子を介して互いに連携し,免疫応答と危険回避のための行動応答を併せた広い意味での生体防御において重要な役割を果たしていると考えられる.こういった点に着目した研究は,神経系と免疫系で働く生体調節機構の不調による疾患に対する新たな治療戦略につながる可能性がある.現時点において我々は,免疫系と神経系で働く新たな分子機構をいくつか見出しており,本研究課題はおおむね順調に進捗しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
最近,IL-33がアレルギー疾患などの様々な免疫疾患の増悪に関与していることが報告されている.したがって,IL-33の産生制御機構を詳細に解析することは,アレルギー疾患に対する新たな治療戦略につながると考えられる.すでに我々は,アドレナリンβ2受容体を介したシグナルが,樹状細胞におけるIL-33の発現を劇的に上昇させることを見出している.さらにマクロファージ細胞株RAW264.7においても同様の現象を確認している.今後は,β2受容体を介したシグナルがどのような分子機構によってIL-33の発現を制御しているかについて解析する予定である.この解析に細胞株の使用が可能であることは,分子レベルでの解析において有益であると考えられる.また,IL-33産生パーターンにおいて,樹状細胞とマクロファージとでは,経時変化やLPS (TLR4 ligand) 単独での作用が異なることから,これらの差異を糸口として,IL-33産生制御機構の解明を進めていく予定である.さらに,IL-33産生の他のサイトカイン産生に与える影響や他のサイトカインがIL-33産生に与える影響についても解析する.アドレナリン受容体を介したIL-33産生増強の解析には,マクロファージ細胞株を使用することができることから,その分子レベルでの解析には,抗体や阻害剤を用いた実験に加え,siRNA用いた遺伝子ノックダウンによる解析を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本件研究課題遂行に必要な,樹状細胞やマクロファージを十分得るためには,多数のマウスを必要とする (動物購入費および動物飼育費).さらに,マウス in vivoにおけるIL-33産生制御機構についても解析する必要がある(動物購入費および動物飼育費).樹状細胞およびマクロファージにおける β2受容体刺激にともなう遺伝子発現の変化とLPS刺激による影響をマイクロアレイ法により網羅的に解析する予定であり,マイクロアレイによる解析費用が必要となる.また,樹状細胞およびマクロファージを培養するための培養器具が必要である.サイトカイン産生の解析は,ELISA法やウェスタンブロット法によって行う予定であるが,そのための抗体およびプレートや発色試薬が必要となる.細胞表面マーカーの解析には種々の蛍光標識抗体が必要である.分子レベルでの解析には分子生物学用の試薬が必要であり,特にsiRNAのノックダウンには,siRNAやトランスフェクション試薬の購入が必要である.また,学会等における成果発表のための旅費を必要とする.
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