研究課題
1. ポリアミンは主としてRNAと結合し、その構造を変化させることにより特定蛋白質合成を翻訳レベルで促進する。これまでに大腸菌で11種の細胞増殖に関連する蛋白質及び1種の生存に関わるribosome modulation factor (RMF)がポリアミンにより合成促進をうけることを明らかにしてきた。今年度は大腸菌の緊縮応答因子であるppGppの合成と分解に関わるSpoTとppGppの機能発現に関わるRpoZがポリアミンにより翻訳レベルで合成促進されることを見出した。ポリアミンによる合成促進メカニズムは、spoT mRNAの開始コドンがAUGではなく、非効率的なUUGであるためであった。また、rpoZ mRNAの場合は翻訳開始に重要なShine-Dalgarno (SD)配列と開始コドンAUGとの距離が離れていることに起因することを明らかにした。ポリアミン非存在下では細胞生存は著しく低下するが、ポリアミン非存在下でもSpoTとRpoZを過剰発現できるプラスミドを導入することにより、細胞生存率の顕著な上昇が認められ、SpoTとRpoZが細胞生存率に大きく寄与することを明らかにした。2. ポリアミンの酸化分解により生じるアクロレインは強い細胞毒性を示すが、マウス神経芽細胞腫Neuro-2aをアクロレインに暴露することにより、野生株に比べアクロレイン毒性が半分に軽減した耐性株を分離した。この耐性株ではグルタチオン量が約2倍上昇しており、細胞内ではグルタチオンがアクロレイン毒性を低下させる主成分であることが明らかとなった。そのメカニズムとしては、2種のグルタチオン合成酵素(γ-グルタミルシステインリガーゼとグルタチオン合成酵素)量が上昇しており、両酵素発現の転写因子であるc-Jun及びNF-B p65のリン酸化の上昇によることが明かとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
ポリアミンの生理機能解明に関し、ポリアミンにより翻訳レベルで合成促進をうける遺伝子の同定が大腸菌でほぼ完了し、真核細胞でもeEF1Aを見出し、そのメカニズム解明が順調に進んでいる。 アクロレインの細胞毒性機構解明もアクロレイン化蛋白質を同定し、アクロレイン化アミノ酸の同定にも成功し、順調に進んでいる。 細胞内濃度調節機序解明も、プトレスシン取り込み系の生理的役割を明らかにしている。
大腸菌では、ポリアミンが結合して構造変化を起こすことにより、翻訳レベルで合成促進を起こすRNA構造が同定されてきた。この構造変化を分子レベルで更に明らかにするためNMR等により構造解析を行う。また、真核細胞でも同様なメカニズムでポリアミンが翻訳を促進するかどうか、mRNAに特徴があり、細胞増殖・分化に重要な遺伝子をポリアミンモジュロンとして同定する。 アクロレインの細胞毒性機序解明に関しては、アクロレイン耐性株の耐性機構を明らかにする予定である。
ポリアミンが特徴的な構造変化を引き起こすRNAを合成し、NMR解析を行う。また真核細胞の細胞培養系を用いて、遺伝子トランスフェクション、Western blotting等により解析する。以上のように物品費に主として使用すると共に、研究成果発表のための旅費として使用する。 次年度繰越金に関しては、ポリアミンモジュロン同定に必要な抗体の入荷が遅れたためであり、抗体購入に使用する。
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