研究課題
TNIIIA2はNIH3T3の脱着性細胞死アノイキスを強く阻害したが、この作用がβ1インテグリンの活性化に起因することを証明した。またこのアノイキス抑制には、主要な細胞生存シグナル分子であるAktの活性化とアポトーシス抑制性タンパク質Bcl-2の発現上昇が関与することが明らかになった。また、TNIIIA2は、PDGF受容体とその下流シグナル経路の持続的活性化により、細胞増殖を過度に刺激することが示された。この活性化は、TNIIIA2がPDGF受容体とβ1インテグリンの細胞膜raft/caveola内への集積と巨大複合体形成の誘導に起因していると推測された。一方、神経膠芽腫(GB)は高い増殖能と浸潤能に基づいて治癒率が極めて低い難治性悪性腫瘍で、テネイシンCのみならずPDGF受容体が高発現していることから、ヒトGB細胞に対するTNIIIA2の作用を解析した。その結果、TNIIIA2はGB細胞の細胞間接着を低下させて細胞分散を誘導すること、TNIIIA2はGB細胞のPDGF依存性の増殖、移動をインテグリン活性化に基づいて過度に増強することが明らかとなった。以上、腫瘍部位で高発現するテネイシンCは、TNIIIA2機能を介して細胞死に対する抵抗性や過剰増殖能など悪性形質獲得に寄与する可能性が明らかになった。実際TNIIIA2は、テネイシンCとPDGF受容体を高発現する神経膠芽腫細胞のPDGF依存性の増殖や移動を過度に促進し、更にTNIIIA2は単独で神経膠芽腫細胞の細胞間接着を分散する等、悪性転換に深く関与している可能性が示された。TNIIIA2機能部位は、神経膠芽腫を始めとする悪性腫瘍の悪性化を阻止する良い標的になるのではないかと期待される。抗TNIIIA2中和抗体を神経膠芽腫に対する抗腫瘍薬として利用可能かどうか、その可能性を検討している。
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