研究課題
メタボリックシンドローム発症の要因は様々であるが、生活時間帯のシフトによる生体リズムの乱れもそのひとつであることが多くの疫学調査より示唆されている。生体リズムは、細胞レベルにおいて時計遺伝子であるBrain-Muscle Arnt Like Protein (BMAL)1により制御されている。我々は前回までの採択研究においてBMAL1全身KOマウスを作製し、その解析を行ったところ、BMAL1全身KOマウスは高脂肪食負荷による脂肪組織の肥大化に対して抵抗性を示し、その結果、脂肪組織に蓄えられない過剰の脂質が循環し、肝臓ならび骨格筋における異所性脂肪の蓄積、脂質異常症ならびに耐糖能の低下を示すことを明らかにした。そこで本研究では、上述した知見を基に体内時計システムの異常よるメタボリックシンドローム発症メカニズムを明らかする目的で、脂肪細胞特異的にBMAL1遺伝子を破壊したadipoBMAL1 KOマウス"を作製した。現在、順調に実験に供するだけのマウスの数を確保している。また脂肪組織以外の組織に関して、遺伝子改変マウスを用いた検討により、BMAL1の肝臓における糖代謝ならびにインスリン感受性調節への関与ならびに骨格筋の機能制御における役割等を明らかにした。さらにヒト末梢血液を用いて、肥満者における生体リズムの変化を検討した。その結果、肥満者ではBMAL1の発現量が普通体型者よりも高いことが示された。特にBMAL1, CRY1, CRY2およびPER2の発現量は、12:00 から21:00の間において顕著に増加した。これらの結果は、末梢血中の時計遺伝子の発現と肥満との間に何らかの制御機構が存在していることを示唆している。以上の結果は、原著論文3報、総説5報、招待講演11回において発表された。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウスを用いた検討に関しては、当初マウスの作製ならびにそのクリーンアップに予想以上の時間を要したため若干の遅れが生じた。しかしながら現在では、順調に交配ならびに仔の産出が行われており、次年度以降に十分な成果をあげるだけのマウス数は確保されている。また脂肪組織以外の組織におけるBMAL1の知見が飛躍的に得られた。また上述したようにヒトに関する知見は予想以上の成果を上げており、全体を総括的にまたならば順調に進展していると言える。
(adipoBMAL1 KOマウスの生化学的ならびに病理学的検査得られたマウスについて、体重、摂餌量、呼吸商(酸素吸入量ならびに二酸化炭素排出量)、白色脂肪組織重量、褐色脂肪組織重量、血中コレステロール量、血中トリグリセリド量、血中インスリン量、血糖値、血中遊離脂肪酸量ならびに血中アディポサイトカイン類量などのパラメーターを解析する。またこれらの検査に関して高脂肪食で飼育した場合においても同様に検討を行う。次いで脂肪細胞数ならびに大きさを中心に病理的な観察を行う。adipoBMAL1 KOマウスの耐糖能ならびにインスリン感受性の検討 全身性BMAL1 KOマウスは耐糖能の低下を示すが、肝臓特異的あるいは骨格筋特異的BMAL1 KOマウスではそのような変化は認められない(未発表)。このことは脂肪組織におけるBMAL1が全身の耐糖能ならびにインスリン感受性に影響を与えることを示唆している。そこでadipoBMAL1-Tetマウスの耐糖能ならびにインスリン感受性をブドウ糖負荷試験ならびにインスリン負荷試験によって検討する。adipoBMAL1 KOマウス脂肪組織における遺伝子発現の変化 上述した一連の脂肪組織を中心とした表現型ならびに生化学的パラメーターの変化を分子レベルにおいて解析するために、adipoBMAL1-Tetマウスの脂肪細胞における遺伝子発現をコントロールマウスのそれとDNAマイクロアレイ上にて比較する。アレイ上における発現量に2倍以上の差異が認められた遺伝子に関してはリアルタイムRT-PCRによりさらにその差異を確認し、確認出来た遺伝子に関してのみ以後の検討を行う。
主にマウスの血液生化学検査、病理学的検査ならびに遺伝子発現解析にかかる費用、学会出張旅費(アディポサイエンス研究会ならびに日本時間生物学会)、論文発表にかかる費用である。
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