研究課題
1)単球との相互作用によるがん細胞の形質変化昨年度に確立した単球とがん細胞株の共培養系を用いて,がん細胞を単球とともに5日間培養し,その後のがん細胞のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)産生能および浸潤能を評価した.その結果,MKN1細胞およびHT1080細胞では,共培養によりMMP-9 産生能および疑似基底膜への浸潤が増強することが判明した.SN12CおよびEJ-1細胞では,MMP-9産生能の増強は顕著ではなく,また浸潤能の増強も認められなかった.がん細胞の形質変化についてさらに調べたところ,インテグリンα5β1やフィブロネクチンの発現も上昇し,これらの相互作用ががん細胞の浸潤能亢進に寄与している可能性を示した.このようながん細胞の形質変化をもたらすメディエーターとしての腫瘍壊死因子 (TNF-α) の重要性が示された.2)α3インテグリン発現への転写因子Ets-1の関与α3インテグリン遺伝子上流のプロモ-タ-領域に結合する転写因子について,ゲルシフトアッセイ,クロマチン免疫沈降法,DNAアフィニティ-沈降法を用いて解析したところ,Ets-1転写因子がプロモ-タ-領域に特異的に結合することが判明した.次いで,Ets-1のドミナントネガティブ変異体の導入実験およびEts-1の強制発現実験によるα3インテグリン遺伝子発現変化を解析した.その結果,この転写因子がα3インテグリン発現制御に深く関与することが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
細胞外マトリックスタンパク質ラミニン5の精製に時間を要しているがおおむね順調に進行している。
1)腹膜中皮細胞を含む疑似腹膜の調製およびがん細胞の浸潤能の評価今年度に引続きBoydenチャンバーを用いた疑似腹膜の浸潤評価系を確立する。この疑似腹膜は,チャンバーの上室と下室を隔てるPET膜表面をマトリゲルでコートし,その上部にマウス腹膜中皮細胞を単層培養する。このように調製したチャンバ-の下室に線維芽細胞由来の細胞走化性因子を,上室には胃がん細胞株をそれぞれ添加し,一定時間の培養後に下室に浸潤する細胞を計測する。この方法により腹膜転移性の胃がん細胞株であるMKN1およびNUGC4細胞の浸潤能を測定する。また,主要な基底膜構成成分であるラミニン5を添加する系も開発する予定である。抗接着分子抗体,ラミニンファミリー分子に対する抗体またはMMP阻害薬の効果やRNA干渉法によりα3インテグリンをノックダウンさせた細胞の浸潤能の変化等を評価し,インテグリンや腹膜のリガンド分子の役割を解析する。2)サイトカインによる中皮細胞活性化およびマトリックス分解酵素誘導単離した腹膜中皮細胞の炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-1,IFN-γ)に対する応答性を調べる。がん細胞あるいは中皮細胞にサイトカインを作用させた後に、ゼラチンザイモグラフィー法およびELISA法によりMMP-2およびMMP-9を測定する。同時にα3β1インテグリンの高親和性リガンドであるラミニン5産生変化をELISA法および蛍光接着試験により測定し、がん細胞の浸潤および宿主免疫細胞の動態に対するこれらの分子群の役割を検討する。
次年度の研究費の主な使途は、今年度と同様に消耗品となる予定である。購入予定の主なものは、マウス、培養器具、培地および血清、抗体、サイトカイン類などを予定している。
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Clinical & Experimental Metastasis
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