研究課題/領域番号 |
23590093
|
研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
奈邉 健 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (40228078)
|
研究分担者 |
水谷 暢明 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (90340447)
藤井 正徳 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (40434667)
安井 裕之 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (20278443)
|
キーワード | 気管支喘息 / 好中球 / マクロファージ / 気道リモデリング / アレルギー / 肥満細胞 / 好塩基球 / 制御性T細胞 |
研究概要 |
2011年度の成果より、COPDおよび難治性喘息のうち、後者における好中球などの自然免疫系の細胞の役割の解析、およびその制御に関する検討に焦点を絞ることとした。 感作マウスに抗原を反復気管内投与すると、難治性喘息の特徴の1つである遅発性喘息反応 (LAR) が好中球依存性に発症する。本年度は、好中球浸潤の責任細胞を明らかにする一環とし、一般にアレルギー反応の引き金となるとされる肥満細胞、ならびに、近年、多彩な機能を有することが知られる好塩基球の役割を検討した。肺に存在する肥満細胞および好塩基球をフローサイトメーター解析により検出し、これらの細胞が喘息マウスの肺において増加することを世界で初めて明らかにした。しかしながら、抗FcεRI抗体を用いた中和実験により、LAR発症時における好中球浸潤には、肥満細胞および好塩基球の関与は大きくないことが明らかとなった。 また、難治性喘息の特徴の1つである気道リモデリングにおけるパーオキシナイトライト(一酸化窒素とスーパーオキシドアニオンの反応生成物)の関与を、マンガン含有化合物による捕捉実験で検討したところ、気道リモデリングには好中球以外の細胞から産生されるパーオキシナイトライトが関与することが示唆された。 一方、これまでに、in vivo抗原刺激により制御性T細胞の一種であるIL-10産生性Tr1様細胞が誘導され、好中球浸潤を負に制御していることを明らかにしてきた。したがって、Tr1細胞の移入による抗原特異的免疫療法の基盤技術を確立するため、感作マウス脾細胞を抗原ならびにIL-21、IL-27およびTGF-βの存在下に7日間培養したところ、IL-10産生性CD4+ T細胞が誘導できることが明らかとなり、この細胞を解析した結果、Tr1細胞あるいは抑制性 Th1細胞、もしくはこれら両者であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の計画として、気道リモデリングおよびLAR の発症におけるマクロファージおよびIL-33の関与を検討する計画をしていた。実際に、2012年度において、マクロファージを枯渇するリポソーム封入クロドロネートを用いて検討を行ったが、本試薬自身の気管内投与で好中球浸潤を誘起してしまい、解析が困難であった。継続的に基礎検討が必要である。 一方、好中球依存性LARの責任細胞として、肥満細胞および好塩基球の関与が大きくないことを新たに明らかにすることができた。肥満細胞や好塩基球はIgE依存性のアレルギー反応、すなわち獲得免疫系において中心的役割を担う細胞であり、今回の成績は、本モデルの好中球浸潤が、獲得免疫系よりむしろ自然免疫系に関わる細胞や分子により誘起されていることをさらに示唆するものである。また気道リモデリングにはパーオキシナイトライトが関与することも新たに明らかにすることができ、今後、活性酸素種/活性窒素種がマクロファージ由来であるか否かも興味があるところである。 さらに、当初の計画であったTr1細胞のin vitro誘導に関しては、IL-10産生細胞の誘導のみならず、本細胞の特徴付けもできた。本誘導方法の効率で、実際に抗喘息作用を試すに足る細胞数が得られているか否かは、今後の検討を待たねばならない。しかし、Tr1細胞の研究に関しては、2012年度初めに立てた計画以上に進展させることができた。今後の抗原特異的細胞免疫療法の開発に期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)気道リモデリングおよびLARの発症におけるマクロファージを軸とした発症機構の解析:好中球と同様に自然免疫系において中心的な役割を演じるマクロファージに着目し、M2マクロファージへの分化過程や気道リモデリングへの関与について検討する。とくに、M2マクロファージの分化におけるIL-33の役割について検討する。一方、近年、in vitro実験で、β刺激薬が樹状細胞からのIL-33の産生を増強することが報告された。臨床において問題となってきたβ2刺激薬の過剰反復吸入による喘息の悪化が、IL-33産生増強、気道リモデリングの悪化によって誘起されている可能性が考えられる。そこで、β2刺激薬を媒介にした薬理学的側面より、IL-33・気道リモデリング・マクロファージの関連性の詳細に迫る。さらにこのことが明らかとなれば、交感神経系の興奮と気道リモデリングの関係の一端を明らかにすることに繋がり、将来的に非常に興味深い。 (2)気道リモデリングにおける活性酸素種/窒素種の関与に関する検討:マンガン含有化合物の気道リモデリング抑制作用の機序をさらに解析するとともに、パーオキシナイトライトを生成する活性酸素種/活性窒素種がマクロファージ由来か否かを検討する。 (3)培養Tr1細胞による喘息制御の試み:難治性喘息を制御する抗原特異的細胞免疫療法の開発の一環として、2012年度までにin vitro誘導系を確立したIL-10を高産生するTr1細胞/抑制性 Th1細胞を用い、本細胞が実際に抗喘息作用を発揮するか否かをin vitroおよびin vivoモデルによって明らかにする。さらに、in vivoで移入したTr1細胞/抑制性 Th1細胞が、効率よく肺の所属リンパ節に移行し、抗原惹起により増殖するか否か、さらに効率的に所属リンパ節にホーミングする方法の開発に着手する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
2013年度以降は、新たにマクロファージおよびIL-33の役割を検討する計画を追加したが、これは研究分担者の水谷が一部担当するため、20万円の研究費を配分する。また、マンガン含有化合物の作用機序の解析において、活性酸素・窒素種の測定に関しては、研究分担者の安井が一部担当するため、20万円の研究費を配分する。気道リモデリングの組織学的解析の一部は、当初の計画通り、研究分担者の藤井が一部担当するため、20万円の研究費を配分する。研究代表者の奈邉は、70万円(ならびに繰越金)で研究の統括、ならびに培養Tr1細胞による喘息制御の試みを検討する。
|