研究課題/領域番号 |
23590098
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
伊藤 文昭 摂南大学, 薬学部, 教授 (80111764)
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研究分担者 |
西尾 和人 近畿大学, 医学部, 教授 (10208134)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | EGF受容体 / チロシンキナーゼ阻害剤 / 抗癌剤 / 抗体医薬 |
研究概要 |
1)ヒト扁平上皮がん細胞A431を抗原として作成した抗EGFRモノクローナル抗体(B4G7)をヒト非小細胞肺がん細胞PC-9とPC-14に添加後、Western blot法によりEGFRの発現量を調べると、PC-9細胞ではEGFR量は著しく減少するが、PC-14細胞ではほとんど減少しなかった。EGFRの細胞内局在を一次抗体(マウス抗EGFR抗体)、二次抗体(Alexa 488結合抗マウス抗体)を用いた蛍光免疫細胞化学染色法で調べると、PC-9細胞ではリガンド処理をしない条件でもEGFRは細胞内に取り込まれており、トランスフェリンと共局在を示した。B4G7で処理をすると細胞内の蛍光量は時間と共に減少した。また、リソソームのマーカーであるLAMP2とEGFRの局在をはほとんど観察されなかいことから、B4G7/EGFRはリソソームに輸送された後、リソソーム内で急速な分解を受けると考えられた。一方、PC-14細胞ではリガンド未処理、B4G7処理のいずれの場合もEGFRは細胞内に取り込まれず、細胞膜上に存在した。2)当研究室でPC-9細胞から単離したチロシンキナーゼ阻害剤耐性株を用いて、EGFRの発現量をWestern blot法により調べた。B4G7処理をすると、EGFR量は時間と共に著しく減少することから、耐性株でもB4G7/EGFR複合体はリソソームに輸送されることが推測された。 EGFRチロシンキナーゼが持続的に活性化されているPC-9細胞および耐性株では、B4G7/EGFR複合体はリソソームに輸送されるが、正常型EGFRを発現しているPC-14細胞ではB4G7/EGFR複合体は細胞内に取込まれないと考えられる。B4G7に抗がん剤を結合させることにより、ゲフィチニブ感受性および耐性を獲得した非小細胞肺がんの細胞内に効率的に抗がん剤を送り込むことが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PC-9細胞、PC-9から単離したチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に耐性の細胞、TKI非感受性のPC-14細胞をB4G7で処理したときのEGFRの細胞内局在を、一次抗体(マウス抗EGFR抗体)、二次抗体(Alexa 488結合抗マウス抗体)を用いた蛍光免疫細胞化学染色で調べ、明らかにした。 また、平成23年度は、抗がん剤ダウノルビシンの活性化体であるSuOCO-(CH2)3-CO-ALAL-ダウノルビシンを合成し(ALALはアラニン-ロイシン-アラニン-ロイシンであり、リソソーム内のタンパク質分解酵素で分解を受けるよう付加された)、活性エステル(Su-)を介してB4G7のアミノ基に結合させた。SuOCO-(CH2)3-CO-ALAL-ダウノルビシンとB4G7は種々の割合(1:1、5:1、10:1)で反応させた。その後、ゲル濾過によりB4G7画分を集め、PC-9およびPC-14細胞に添加して、細胞毒性を示すかをWST-8法で調べた。しかしながら、どちらの細胞に対しても細胞毒性は見られなかった。この原因としては、ALALが細胞内で切断されないなどの可能性のほかに、活性エステル(Su-)を介してダウノルビシンをB4G7のアミノ基に結合させる反応中に凝集物が生成することが考えられる。B4G7のアミノ基にダウノマイシンが結合すると親水性が低下して凝集してしまうことが予想される。このため、23年度は途中から計画を変更し、パクリタキセルとB4G7を結合させることにした。パクリタキセルの活性化体の合成に手間取ったこと、さらに、大量のB4G7を準備するのに時間がかかったことにより、当初の予定より進行状況はかなり遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、平成23年度に得られた結果を基にして、ダウノルビシン/B4G7コンジュゲートがヒト肺がん細胞株H1650(EGFRはdelE746-A750であるがゲフィチニブ耐性)や申請者らが単離したゲフィチニブ耐性株(AY-0、AY-5)に対しても毒性を示すか調べる予定であったが、活性を示すダウノルビシン/B4G7コンジュゲートを得るのが難しいことが分かったので、以下のように変更する。 1)パクリタキセル/B4G7コンジュゲートを合成する。具体的には、パクリタキセル-O-CO-(CH2)3-COOHとcarbonyldiimidazoleを反応させ、その後、B4G7を加えパクリタキセル-O-CO-(CH2)3-CO-NH-B4G7とする。このコンジュゲートがPC-9細胞やゲフィチニブ耐性株を特異的に殺すことができるか調べる。 2)PC-9細胞をB4G7で処理するとEGFR量の減少が起きる。PC-9細胞の増殖・生存は、EGFRからのシグナルに依存しているため、B4G7は増殖阻害作用を示すことが考えられたが、むしろ増殖は促進された。この理由は、私達がすでに報告しているように、EGFR量の低下によりErbB2/ErbB3の2量体形成が増加し、この2量体からのシグナルにより細胞増殖の促進が起きているためである。そこで、B4G7とErbB2阻害剤を併用することによりPC-9細胞やゲフィチニブ耐性株を特異的に殺すことができるか調べる。 3)リソソーム内のタンパク質分解酵素の阻害剤を加えたときのB4G7処理時におけるEGFRの局在とLAMP2の局在を調べ、 B4G7処理をするとEGFRがリソソームに輸送されることを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ダウノルビシン/B4G7コンジュゲートの実験が予想通り進まなかったため、およそ40万円を平成24年度に繰り越したが、上記のように実験の変更を行い、その他の計画は予定通り進める。
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