研究課題/領域番号 |
23590098
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
伊藤 文昭 摂南大学, 薬学部, 教授 (80111764)
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研究分担者 |
西尾 和人 近畿大学, 医学部, 教授 (10208134)
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キーワード | 上皮増殖因子受容体 / 非小細胞肺がん / 抗体医薬 / 抗がん剤 |
研究概要 |
上皮増殖因子受容体(EGFR)に対するモノクローナル抗体(B4G7)を用いて、次の2点について明らかにした。 1.正常型EGFRを発現する非小細胞肺がん細胞PC-14では、EGFRは細胞膜上に局在しており、 EGFで処理すると細胞内に取込まれ、リソソームに輸送され分解された。一方、持続的活性型EGFRを発現するヒト非小細胞肺がん細胞PC-9では、EGFRは細胞膜上および細胞内に分布しており、EGF処理をしてもその分布は変わらず分解も受けないことから、リソソームへの輸送は起きていないと考えられた。すなわち、PC-9細胞ではEGFの有無にかかわらずEGFRは常に活性化されており、ダウンレギュレーションを受けず常に増殖シグナルを送ることが可能であった。一方、PC-9細胞をB4G7で処理するとEGFRはリソソームに輸送されるようになり、このときEGFRのチロシン残基のリン酸化を調べたところ1045番目のリン酸化が増加していた。1045番目のリン酸化がEGFRのリソソームへの輸送に重要な役割を果たしていると考えられる。 2.PC-9細胞をB4G7で処理すると、EGFRに結合したB4G7はリソソームに輸送されるが、PC-14細胞では細胞内に取込まれないことを利用して、持続的活性型EGFR を発現する肺がんを選択的に殺すことができるか調べた。2’-グルタリルパクリタキセルを合成し、45℃で25分間N,N'-カルボニルジイミダゾールと混合(モル比=1:10)した。その後、B4G7を加え(パクリタキセル:B4G7=2:1)、4℃で一晩反応させ、B4G7にパクリタキセルが結合したコンジュゲートを調製した。PC-9およびPC-14細胞の生存率は0.04μMパクリタキセル処理により20~30%に低下したが、コンジュゲート処理では5倍量の0.2μMで処理しても、両細胞の生存率は低下しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.正常細胞では、EGFRはEGFの結合により活性化され、リソソームへ輸送され分解された。しかしながら、PC-9細胞ではEGFRが活性化されているにもかかわらず、EGFRはダウンレギュレーションされずリサイクリングされた。しかし、B4G7で処理するとリソソームに輸送されるようになったことから、このB4G7の作用に注目して、EGFRの細胞内輸送経路を制御する機構について調べた。その結果、EGFRの1045番目のリン酸化がリソソームへの輸送に重要な役割を果たしていることが明らかになり、ほぼ予定通り研究計画は進行している。 2.B4G7に結合させた抗がん剤を、リソソーム経由で細胞内に効率的に取込ませ、gefitinib感受性の 肺がん細胞はもとよりgefitinibに耐性を獲得したがん細胞に対しても効果を示す抗体医薬を開発することが、本研究の大きな目的であった。しかし、gefitinib感受性のPC-9細胞に効果を示す抗体医薬を作ることができず、計画は大幅に遅れている。この原因としては、1)抗がん剤を結合させたB4G7のEGFRへの結合性やリソソームへの到達度が低下している、2)非小細胞肺がん細胞のEGFR発現量が少なく、細胞死を起こすのに十分な量の抗がん剤を細胞内に送り込めないなどの理由が考えられた。原因解明のため、1)蛍光標識抗体(Alexa Fluor647 Labeling Kitで標識した抗マウスIgG抗体)を用いて、B4G7およびコンジュゲートの細胞内分布を蛍光顕微鏡で調べる、2)EGFRを大量に発現しているA431細胞でコンジュゲートの殺細胞効果を調べるなどの実験を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
1.B4G7とは異なるEGFRのエピトープを認識する人工抗体(hIgG38、hIgG40、hIgG42、hIgG4538)をCHO細胞を用いて大量産生させる。PC-9およびPC-14細胞を得られた人工抗体で処理したときのEGFRの細胞内動態を蛍光免疫細胞化学染色およびWestern blot法を用いて調べる。また、両細胞の増殖・生存に及ぼす作用を調べ、種々のエピトープを認識する抗EGFR抗体が多様な作用を示すメカニズムを明らかにし、抗EGFR抗体を利用したがん治療法の開発を目指す。 2.E3-ubiquitin ligase であるCbl はEGFRの1045番目のチロシンがリン酸化された部位に結合して、EGFRのユビキチン化を惹起する。ユビキチン化 EGFRは細胞内に取込まれた後、エンドソーム膜のHrs、STAMを構成成分として含むESCRT 複合体によって認識され、MVB(Multi-vesicular body)を経てリソソームへと輸送されることが報告されている。この輸送経路の進行にはHrsのチロシン残基のリン酸化が必要である。そこで、PC-9、PC-14細胞において、EGFあるいはB4G7で処理した時のHrsのチロシンリン酸化、およびEGFR のmono-ubiquitinationとK63polyubiquitinationを調べ、チロシンキナーゼが持続的に活性化されているEGFRの細胞内輸送経路を制御している分子機構について明らかにする。 3.B4G7にネオカルチノスタチンを結合させたコンジュゲートをつくり、PC-9およびPC-14細胞の増殖・生存に対する作用を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
B4G7にパクリタキセルを結合させたコンジュゲートを使用した実験は予定通り進んでいないため、上記に示したような実験の変更を行うが、その他はほぼ当初の計画通り研究を実施する。
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