上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ(TK)が持続的に活性化されている多数の非小細胞肺がん患者が見つかっており、TK活性を阻害する分子標的治療薬(gefitinib、erlotinibなど)が臨床の場で使用されている。TK阻害剤は、使用当初は劇的な腫瘍縮小効果を示すが、その後、効果が見られなくなる耐性の問題があり、新たな抗がん剤の開発や耐性獲得機構の解明が精力的に行われている。 本研究では、TKが持続的に活性化されておりTK阻害剤により増殖が抑制されるヒト非小細胞肺がん細胞PC-9、変異を有さずTK阻害剤による抑制が起きないPC-14細胞および私たちがPC-9細胞から単離したTK阻害剤耐性細胞を使用した。これらの細胞を、ヒト扁平上皮がん細胞A431を抗原として作成した抗EGFR抗体(B4G7)で処理後、Western blot法でEGFR発現量を調べると、PC-9細胞では、EGFR量は時間経過と共に著しく減少したが、PC-14細胞ではほとんど減少しなかった。一方、B4G7処理によるEGFR m-RNAの発現量の変化は、いずれの細胞でも見られなかった。 次に、B4G7で処理したときのEGFRおよびB4G7の細胞内局在について、共焦点レーザー顕微鏡を用いて調べた。PC-9細胞や耐性細胞ではEGFRとB4G7は共に、細胞内に取り込まれリソソームに輸送されるが、PC-14細胞では細胞内へ取り込まれなかった。そこで、B4G7に結合させた抗がん剤(パクリタキセルあるいはダウノルビシン)で細胞を処理し、細胞生存に及ぼす影響を調べた。抗がん剤を化学的に結合したB4G7は、がん細胞特異的な増殖阻害作用は示さず、いずれのがん細胞に対しても同じような濃度で作用を示した。また、その増殖阻害作用は抗がん剤単独の場合より弱かった。
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