研究課題
Na+/H+交換輸送体NHE1は、心筋細胞など細胞の形質膜に発現し、細胞内pHを中性付近に維持する重要な役割を持つ。申請者らは、NHE1の新規結合蛋白質として、心筋細胞の病的な肥大化を仲介する事が知られる脱リン酸化酵素カルシニューリン(CaN)を発見した。本研究は、両者の相互作用の病態的意義を明らかにする事を目的とする。CaNは、NHE1のC末端側細胞質領域に直接結合することがわかった。そこで、NHE1がCaN活性に影響するのか調べた。驚くことに、内在性CaNの活性は、CaN結合部位を欠失したNHE1を強制発現する細胞と比べて、野生型NHE1を強制発現する細胞では3倍程度上昇した。いくつかのNHE1変異体を作製して調べた結果、NHE1によるCaN活性増幅作用には、NHE1のCaN結合能と基質輸送活性の両方が必要であることが分かった。これらのことから、NHE1は自身の活性化による近傍のアルカリ化を介して結合したCaNを活性化し、CaNの標的である転写因子NFATの活性を上昇させるという新たな機構が存在することが考えられた。実際に、in vitroのCaN活性はpH依存的であり、アルカリpHで活性が上昇した。このようなNHE1によるCaN活性の増幅機構は心筋細胞でも機能しており、CaN結合能を持たないNHE1を過剰発現した培養心筋細胞では、野生型NHE1の場合と比較して、肥大化促進刺激によるCaNの活性化、およびそれに続くNFATを介した細胞の肥大化が抑制されることを確認した。最終年度は、NHE1に結合したCaNがどの様に下流にシグナルを伝えているのかを調べ、両者の適度な結合親和性がシグナル伝達に重要である事が分かってきた。本研究は、NHE1とCaNとの相互作用が心筋細胞の病的肥大化のシグナルの一部を成すことを提示し、心肥大の発症機構の理解に寄与するものと考えられる。
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