研究課題
私達は、約24時間周期の体内時計を持つ。この体内時計は時計遺伝子の転写翻訳リズムによって生み出されており、行動や生理機能のリズムを制御している。これまでに多数の時計遺伝子がクローニングされ、24時間のリズムを生みだす細胞内分子メカニズムはほぼ解明された。一方で、個体のリズム制御に関わる時計の入出力の分子神経メカニズムは、依然としてほとんど不明である。体内時計の最高位中枢は脳の視交叉上核(SCN)である。しかしながら、24時間体制の社会システムが当たり前となった現代では、シフトワーカーのみならず一般の生活者ですら外界の明暗リズムとはかけ離れた不規則なサイクルで生活する人が多数を占め、SCN時計システムが破綻の危機に陥り、時差症候群と呼ばれる睡眠障害や消化器失調あるいは生活習慣病が社会問題となっている。しかし、時差のメカニズムはほとんど不明であった。そこで私は、SCNを標的とし時差異常マウスのスクリーニングを行い、バソプレッシン(AVP)の受容体であるV1aとV1bを時差の候補遺伝子として同定した。次に、V1aとV1bを共に欠損したダブルノックアウトマウス(V1aV1bDKOマウス)を作製し、時差実験を行ったところ、野生型マウスでは新しい明暗環境に再同調するのに10日程度を要したが、V1aV1bDKOマウスでは瞬時に再同調した。SCN神経細胞の概日振動をシングルセルレベルで解析したところ、AVPを介した神経結合が外界からのリズム撹乱因子に対して抵抗性を示すことがわかった。すなわち、AVP神経結合が正常な野生型マウスでは、例えば夜間の山火事や雷鳴で不意に明るくなったとしてもそれをもって朝が来たと誤認して体内時計が狂ってしまうことはないと考えられる。この体内時計の頑強性は古来生存にとって必須であったが、現代ではこの安定した体内時計が仇となり、時差にすぐには対応できないのであろう。
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Science
巻: 342 ページ: 85-90
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Cell
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www.pharm.kyoto-u.ac.jp/system-biology/