研究課題/領域番号 |
23590108
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
久恒 昭哲 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (50347001)
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キーワード | シアル酸 / 神経細胞 / ミクログリア / シアリダーゼ / 炎症 |
研究概要 |
中枢神経系疾患や炎症性疾患において、髄液中や血清中シアル酸値が上昇する。そこで本研究ではこれまでは全く不明であったシアル酸の病態生理学的な意義に注目し、中枢神経系におけるシアル酸の作用やそのメカニズムについて培養細胞および動物個体を用いた解析を行い、シアル酸およびシアル酸関連分子を標的としたそれら疾患に対する治療・予防という新たな治療戦略の提唱を目指す。 1)培養細胞に対するシアル酸の影響:神経細胞は種々の刺激に応じてネットワークを形成するが、このネットワーク生成に突起伸長は欠かせないイベントである。そこで、神経細胞の機能に対するシアル酸およびその関連分子の作用を明らかにするため、神経突起伸長に対する効果について検討した。ヒト神経芽細胞に対してシアル酸を作用させたところ、著明な変化は認められなかった。一方、シアル酸分解酵素シアリダーゼを処理すると、突起伸長の更新傾向が認められた。さらに、突起伸長作用が認められている各種誘導因子を用い、それら依存的な突起伸長に対するシアル酸関連分子の関与について検討したところ、Insulin、IGF-1、およびレチノイン酸誘導性の突起伸長をシアリダーゼ阻害薬が抑制したことから、これら因子誘導性の伸長反応において、少なくとも、シアリダーゼ活性が関わっていることが示唆された。 2)動物個体に対するシアル酸の影響:前年度までの検討により、脳内における脱シアル酸が、パーキンソン病などの中枢疾患に認められる神経障害を惹起する可能性が示唆された。そこで、まず実際に疾患モデルにおけるシアル酸および脱シアル酸状態を把握するため、シアル酸および脱シアル酸化を蛍光標識レクチンを用いて評価する系の確立するため、各種条件検討を行っている。今後、病態動物におけるシアル酸および脱シアル酸の影響について、シアル酸の結合状態と病態との関連性を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)培養細胞に対するシアル酸の影響:これまでにミクログリアおよび神経細胞、アストロサイトに対するシアル酸およびシアル酸関連分子の関与についてスクリーニング的な解析を行い、興味深い結果を得ている。現時点では、これらの反応を複合的にとられることができる脳スライス切片培養系を用いた実験は準備段階であるが、その予備段階として単一細胞でのより詳細な結果が得られていることから、計画に沿って概ね順調に推移していると考えている。 2)動物個体に対するシアル酸の影響:非疾患モデル動物を用いてシアル酸関連分子の影響について検討し、興味深い結果を得ることができた。その一方で、疾患モデルにおけるシアル酸の作用については、現在その条件検討の段階である。ただし、シアル酸状態の変化がどの程度病態に影響するか解析する必要があると考え、その評価系構築を行っているところである。従って、動物を用いたシアル酸の関与についても、計画に沿って概ね順調に推移しているを考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)培養細胞に対するシアル酸の影響:神経細胞の機能に対するシアル酸およびシアル酸関連分子の作用およびそのメカニズムについて、検討する。また単一細胞系のみならず、ラット仔脳より調製した脳切片スライス培養を用いて、諸種細胞が混在する擬似的生体環境下における上記反応について検討する。 2)動物個体に対するシアル酸の影響:疾患モデル動物に対するシアル酸の影響について、各種シアリダーゼ阻害薬を用い検討する。さらに、病態の程度とシアル酸量との関連について明らかにしていく予定である。特にシアル酸の影響が顕著に認められた疾患モデルについては、内因性シアリダーゼ活性が著しく低いSM/Jマウスを用いて作製した疾患モデル動物との比較検討を行い、病態発現におけるシアル酸の関与について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)培養細胞に対するシアル酸の影響について全体の約6割を、2)動物個体に対するシアル酸の影響について全体の約3割を、3)学会参加などの旅費や論文投稿を含めた雑費として全体の約1割を使用する計画である。申請者の所属機関および所属研究室の保有する実験設備や機器を最大限活用し、無駄のない予算執行を行う予定である。
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