研究課題/領域番号 |
23590112
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
中原 努 北里大学, 薬学部, 准教授 (10296519)
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研究分担者 |
森 麻美 北里大学, 薬学部, 助教 (80453504)
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キーワード | 薬理学 / 血管生物学 / 網膜血管 / 神経節細胞 / グリア細胞 |
研究概要 |
緑内障と糖尿病網膜症は、後天性失明や視力低下の原因として大きな割合を占める、社会的な問題となっている疾患である。両疾患の発症と進行には網膜循環障害が深く関与しているため、網膜循環を正常化することは視覚障害の進行を阻止するための有効な手段となり得る可能性がある。本研究では、緑内障モデルラットを用いて、1) 網膜血管の構造・機能維持における網膜神経細胞とグリア細胞の役割、と 2) 網膜における神経細胞―グリア細胞―血管構成細胞間の相互作用の分子基盤に焦点を絞り解析し、網膜循環の正常化に基づく緑内障(網膜神経障害)の新規予防・進行抑制戦略を提案することを目的とする。 1. 昨年度「神経―グリア連関」を担う因子の一つである可能性が示されたマクロファージ遊走阻止因子 (macrophage migration inhibitory factor; MIF) の網膜神経傷害における意義について検討を進め、MIF 阻害薬 ISO-1 はNMDA誘発網膜神経細胞アポトーシスのみならず、網膜実質への白血球浸潤ならびにミクログリアの活性化を抑制することが明らかになった。MIFの網膜内発現分布は、NMDA処置後にアストロサイトにおいて発現量が若干増加する傾向が認められたものの全体としては大きく変化しなかった。 2. mTOR阻害薬であるラパマイシンがNMDA誘発網膜神経傷害に対して保護効果を示すことが明らかになった。そして、その作用点がグリア細胞(アストロサイトおよびミュラー細胞)である可能性が示された。 3. NMDA 硝子体内投与により網膜実質におけるミクログリア活性化と数の増加が観察されるが、それを抑制できるリポソーム封入クロドロネート硝子体投与条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、マクロファージの遊走に影響を及ぼす因子であるMIFが網膜に存在しており、その阻害薬が網膜神経傷害を抑制することを見出したが、本年度の検討によって、MIFのアストロサイトにおける発現変化、MIF阻害によるミクログリアの活性化抑制と白血球浸潤抑制等、MIFの網膜における「神経―グリア連関」に関わる因子としての可能性をより強く示唆することができた。またmTOR阻害と神経保護とグリア細胞の変化の関連性を示唆する結果も得られた。これらの因子の血管傷害における意義についての検討も開始することができた。このように「神経細胞―グリア細胞―血管構成細胞間の相互作用」の一端を理解できる目処が付いたため、おおむね順調に進展しているものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
「神経―グリア連関」の解析は順調に進んでいるので、「血管―神経連関」の解析も行い、両者を結び付けて「神経―グリア―血管連関」全体の理解が深められるようにする必要がある。例えば、網膜神経傷害モデルで観察されるグリア細胞の変化が、網膜循環改善薬を適用することでどのように変化するのか、ミクログリアの除去/機能抑制が網膜循環改善薬の神経保護作用にどのような影響を及ぼすのか等の検討。ミクログリアの除去/機能抑制法の確立と網膜の器官培養系およびグリア細胞と神経節細胞または網膜血管内皮細胞との共培養系を用いた in vitro 実験が必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「神経―グリア連関」に関する検討が順調に進んだため、「血管―神経連関」の解析が若干先送りとなり当該研究費が生じた。本年度は、次に挙げる研究を実施し、「神経―グリア―血管連関」におけるMIFとmTORの意義について検討する。 1. MIF 阻害薬のNMDA誘発網膜神経傷害と網膜血管傷害に及ぼす影響を調べることで、MIF の「神経―グリア―血管連関」における役割を明確にする。 2. mTOR阻害薬のNMDA誘発網膜神経傷害・血管傷害・グリア細胞の変化を調べることで、mTORの「神経―グリア―血管連関」における意義を解析する。 3. 網膜血管拡張薬(beta3受容体作動薬CL316243等)の網膜神経保護作用とミクログリア機能変化を明らかにする。 以上の研究の遂行上、必要な実験動物、試薬(抗体を含む)等の物品費と成果発表のための旅費に研究費を使用する予定である。
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