申請者はこれまでラット一過性中大脳動脈閉塞後の梗塞巣体積をSrc familyチロシンキナーゼの阻害薬が縮小することと、この効果に血液脳関門構成タンパク質occludinおよび活性酸素発生にかかわるNADPH oxidaseが関与することを明らかにしてきた。また、再灌流後24時間目における脳実質への好中球浸潤とこの浸潤に対するチロシンキナーゼ阻害薬の抑制効果を明らかにしてきた。これらの結果は、一過性脳梗塞後のチロシンリン酸化増大が血液脳関門の破綻と好中球浸潤に深く関わることを示唆している。さらに、炎症反応で誘導されるcyclooxygenase-2(COX-2)量が、再灌流後24時間目で顕著に増加し、炎症性サイトカインのIL-1β量は再灌流後1時間目で増加していた。この早期のIL-1β上昇はその後の酸化ストレスやさらなる炎症反応を惹起する可能性を示すとともに、Src familyチロシンキナーゼ阻害薬がCOX-2量増加を抑制することを明らかにした。 本年度はさらに、adherens junctionに存在するVE-cadherinのチロシンリン酸化と血液脳関門の破綻機序との関連について検討した。さらに、PDGFR-βのチロシンリン酸化に着目し、その経時変化を検討し、脳梗塞急性期病態の把握を試みた。その結果、BBB破綻機序の1つとしてSrcを介する731番目チロシンリン酸VE-cadherinが関与していることを示した。また、脳梗塞急性期ではチロシンリン酸化PDGFR-βを介するkt 経路の活性化が減弱し、特に梗塞領域では活性化ミクログリアの集積およびペリサイトの脱落を伴うNVUの崩壊が起きていることを示唆した。一方、ペナンブラ領域では、PDGF-B-PDGFR-β経路が梗塞巣の拡大を阻止しNVUの機能維持に重要な役割を果たしている可能性を示した。
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