研究課題/領域番号 |
23590115
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
田野中 浩一 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (50188398)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 循環器疾患 / ストレス / クリスタリン / ミトコンドリア / 心不全 / 心筋梗塞 / 低分子量熱ショックタンパク質 |
研究概要 |
心筋梗塞後不全心では心筋ミトコンドリア機能低下が心機能低下の一因と考えられている。心筋梗塞後の生存心筋への様々なストレスによる障害から、低分子量ストレスタンパク質のアルファBクリスタリン(CryA)が心筋組織を保護すると推測されている。しかしながら、心筋梗塞後の心不全症状発症過程でのCryABの病態生理学的な役割については不明である。本研究ではCryABが心筋梗塞後不全心での心筋ミトコンドリア機能低下に及ぼす作用について解析した。雄性Wistar系ラットの心筋梗塞後8週目に低拍出量性心不全(心不全)の発症を超音波画像診断法で確認した。心筋梗塞後2週目では、心ポンプ機能は維持されており、心機能代償期として心不全期と測定指標との比較を行った。心機能代償期の心筋組織のミトコンドリアエネルギー産生能は維持されていた一方で、不全心のそれは低下していた。この不全心のミトコンドリア機能の低下は、電子伝達系複合体 I の活性が低下することによるものであることを示した。心筋梗塞を免れた生存心筋でのCryABの含量変化について検討したところ、心筋組織での含量は代償期および不全心のいずれでも正常心筋のそれと同様の含量となった。そこで、CryAB の細胞内局在について検討したところ、ミトコンドリア画分での CryAB 含量が代償期に増加しており、不全心ではその含量が更に増大することを発見した。CryAB は59番目のセリン残基のリン酸化/脱リン酸化でその機能調節が行われるので、このリン酸化レベルについて検討した。その結果、ミトコンドリアに集積した CryAB はリン酸化体の含量が著しく減少し、非リン酸化体の含量が増大していることを見出した。この CryAB のリン酸化/脱リン酸化の平衡状態の変動が不全心のミトコンドリア機能を低下させる可能性を提示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究では、心筋梗塞後の心機能代償期と心不全期でのアルファBクリスタリン(CryAB)の変化を把握することを目的として研究を進めた。心筋梗塞後、梗塞による壊死を免れた生存心筋組織でのCryAB発現量は、様々なストレスが負荷されているにもかかわらず変化しなかった。そこで、心筋細胞内の局在変化について検討したところ、心機能代償期にミトコンドリアでのCryABが増加した。不全心ではその増加の度合いはさらに大きくなった。通常、低分子量熱ショックタンパク質ファミリーの一員のCryABは、すとレスにより惹起される障害から細胞を保護すると考えられてきた。しかしながら、本研究での発見は、CryABの集積が必ずしも細胞保護を発揮するわけではないことを示しており、新たなCryABの病態生理学的な役割を示すものとして評価される。心筋梗塞後心不全では、心筋高エネルギーリン酸のATP含量が減少することから、ミトコンドリアのエネルギー産生能が低下すると考えられている。そこで、心筋梗塞後のミトコンドリアエネルギー産生能の変化について検討したところ、電子伝達系の律則段階を形成する複合体Iの活性低下を見出した。この結果から、ミトコンドリアに集積したCryABが電子伝達系複合体Iの活性を低下させ、ミトコンドリアエネルギー産生能を低下させるとの仮説を導き出すことができた。さらに、CryABの59番目セリン残基のリン酸化レベルが正常心筋、代償期心筋、不全心で異なっていることを発見した。すなわち、不全心ではリン酸化CryAB含量が減少しており、このリン酸化レベルの変化によりミトコンドリアへのCryABの集積が誘発される可能性を提示することができた。これらの研究成果は、当初の研究計画の通りに進めることができた。研究の成果の一部を公表するための論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究では、心筋梗塞後の心筋組織でのCryAB発現量の変化を把握し、次の2つの仮説を立てることができた。1) CryABの心筋組織での全体量、すなわち心筋組織含量の変化よりも、細胞内の局在変化が心不全の進展に重要な役割を演ずる。2) そのCryABの細胞内局在変化、すなわちミトコンドリアへの集積はリン酸化レベルにより制御される。CryABの変異がデスミン心筋症の誘因となることが示唆されている。これはCryABの遺伝子が変異を起こす先天的な疾患、すなわち特殊な場合であり、先天的な変異を持たない生体での心筋梗塞後心不全の病態に適用できるものではない。本研究では、変異を持たないCryABでも心筋梗塞後不全心のミトコンドリア機能低下を介した心ポンプ機能低下にCryABが関与することを初めて示す研究である。平成24年度は、CryABのミトコンドリアエネルギー産生能への直接作用の有無について検討する予定である。熱ショックタンパク質は、分子シャペロンとしての機能上、様々な種類のタンパク質に結合する能力を有するだけでなく、CryABが会合することにより分子量サイズの大きな複合体を形成する。異常なタンパク質複合体は、細胞内代謝を阻害するアミロイドオリゴマーと呼ばれる凝集体となる。そこで、CryABのアミロイドオリゴマー形成が心筋梗塞後不全心での心機能低下の誘因となるとの仮説を立て、心筋梗塞後の生存心筋組織でのCryABの凝集体形成およびその細胞内局在を明らかにする。さらに、CryABのミトコンドリアエネルギー産生能への直接作用についても検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に示したように、研究費は実験に使用する物品の購入費に充てる予定である。本研究では、心筋梗塞後心不全モデルをラットで作成するため、実験動物代に用いる。CryABの検出および定量的な解析は、western immunoblot を用いるので、抗体とそれに関連する試薬・消耗品に用いる。さらにCryABおよびそれに関連するタンパク質の細胞内局在を可視化するための抗体・試薬および消耗品の購入に研究費を用いる。
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