研究課題/領域番号 |
23590115
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
田野中 浩一 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (50188398)
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キーワード | 循環器疾患 / ストレス / クリスタリン / ミトコンドリア / 心不全 / 心筋梗塞 / 低分子量熱ショックタンパク質 |
研究概要 |
心筋梗塞後不全心では心筋ミトコンドリア機能低下が心機能低下の一因と考えられている。心筋梗塞後の生存心筋への様々なストレスによる障害から、低分子量ストレスタンパク質のアルファBクリスタリン(CryA)が心筋組織を保護すると推測されている。しかしながら、心筋梗塞後の心不全症状発症過程でのCryABの病態生理学的な役割については不明である。本研究ではCryABが心筋梗塞後不全心での心筋ミトコンドリア機能低下に及ぼす作用について解析した。前年度に心筋梗塞後8週目の雄性Wistar系ラットでは、心ポンプ機能が低下し、いわゆる低拍出量性心不全(心不全)に陥ったことが示された。この不全心のCryAB含量は、ミトコンドリア画分でリン酸化されていない CryAB が増大することを明らかにした。そこで、平成24年度では、CryAB の細胞内局在の変化とミトコンドリア機能低下の関係についてさらに検討を行った。本年度は、不全心でタンパク質凝集体が出現することを発見した。この凝集体は、アミロイドオリゴマー状の凝集体(構造)を認識する抗体で検出された。つまり、不全心の心筋細胞内ではアルツハイマー様のタンパク質凝集体が形成されることを示した。この凝集体に CryAB が構成因子として関与する可能性も提示することが出来た。加えて、CryABだけでなく、他の低分子量ストレスタンパク質の細胞内局在も CryAB と同様に変化することを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究では、心筋梗塞後の心筋細胞内のCryABの細胞内局在と心筋ミトコンドリア機能の関係を検討した。心筋梗塞後心不全に陥ると心筋組織内にアミロイド様のタンパク質凝集体が形成されることを発見した。なお、心ポンプ機能が代償されている心筋梗塞後2週目では、この凝集体は検出されなかった。免疫組織学的染色で、非心筋細胞では観察されなかったことから、凝集体は固有心筋細胞に存在することを示した。さらに、この凝集体の細胞内局在について検討したところ、凝集体はミトコンドリア画分に存在することが確認された。前年度の知見から、不全心の CryAB はミトコンドリア画分に移行したので、アミロイド様凝集体と CryAB の関係について検討した。免疫組織染色から、アミロイド様凝集体および CryAB の心筋細胞内での存在部位は、ミトコンドリアになることが示され、細胞画分での知見と一致した。前年度の研究で、不全心心筋ミトコンドリア画分の CryAB はリン酸化されていないことが示されており、リン酸化されていない CryAB がアミロイド様凝集体の形成およびミトコンドリアへの集積に関与することが示唆された。これらの知見は、前年度の CryAB のミトコンドリアへの集積がオルガネラのエネルギー産生能低下に関与するという仮説を指示するものである。これらの研究成果は、当初の研究計画の通りに進めることができた。 さらに、平成24年度は、CryAB と同じストレスタンパク質ファミリーに属する HSPB1 および HSPB8 の心筋梗塞後の細胞内局在の変化についても検討した。その結果、HSPB1 および HSPB8 では不全心の心筋ミトコンドリアへの移行量が減少した。これらの結果から、不全心でのエネルギー産生能低下には、低分子量ストレスタンパク質のオルガネラでの平衡状態の破綻が関与すると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究結果から、心筋ミトコンドリアの CryAB は、代償期にはリン酸化体で、心不全期には非リン酸化体であることが示された。さらに平成24年度の研究結果から、不全心の心筋細胞にアミロイド様凝集体が出現し、その凝集体はミトコンドリアに局在することが示された。そこで、平成25年度の研究では、CryAB が心筋ミトコンドリアのエネルギー産生能に及ぼす影響について検討する。CryAB のアミロイド様凝集体の形成への関与について in vitro 実験系で明らかにする。つまり、CryAB 自体のアミロイド様凝集体形成能の有無を明らかにする。その中でリン酸化の有無が凝集体形成に及ぼす効果についても検討する。さらに、CryAB のリン酸化に関わるリン酸化酵素の変動についても解析する。 近年、HSP 誘導を促進させる薬物としてゲラニルゲラニルアセトン (GGA) が注目されている。そこで、心筋梗塞後の心不全発症過程での GGA 投与が、CryAB の心筋組織含量およびそのリン酸化に及ぼす効果についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、\33,662 の残高を生じ、平成25年度研究に繰り越すこととなった。本研究では研究費を全て消耗品購入に充てることとなっているので、研究用試薬の購入費として使用する予定である。
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