研究課題/領域番号 |
23590116
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
田中 芳夫 東邦大学, 薬学部, 教授 (60188349)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ドコサヘキサエン酸 / エイコサペンタエン酸 / n‐3系多価不飽和脂肪酸 / 血管平滑筋 / 血管弛緩作用 / TP受容体 / 消化管平滑筋 / 弛緩機序 |
研究概要 |
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は、主として魚介類の油に含有されている不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸;n‐3系)である。DHAやEPAには、脳血栓・心筋梗塞の予防効果や降圧効果など、循環系に対する保護効果が数多く報告されている。しかし、DHAやEPAの血管弛緩作用やその作用機序の詳細に関しては、いまだに不明の点が多く残されている。そこで、本研究では、n‐3系多価不飽和脂肪酸による循環系保護効果に関わる分子基盤の構築を目指すことを最終目的とした基礎的検討を、主としてラット摘出動脈標本を用いて行い、以下の新知見を得た。1 TXA2の安定誘導体であるU-46619にて収縮させた大動脈標本で検討したところ、DHAの血管弛緩は、内皮の有無やNO合成阻害薬・COX阻害薬で著明な影響を受けなかった。このことから、DHAの血管弛緩は、主として血管平滑筋への直接作用によってもたらされる可能性が強く示唆された。2 EPAの血管弛緩作用も、主として血管平滑筋への直接作用によってもたらされることが示唆された。また、EPAもDHAとほぼ同程度の血管弛緩作用を示すことが示された。一方、n‐6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸(LA)は、DHAやEPAが著明な血管弛緩を示す濃度でも血管弛緩をほとんど示さなかった。3 DHAの血管弛緩作用がTP受容体を介した収縮に対してのみ選択的にもたらされる可能性を吟味したところ、当初の予想に反して、アドレナリンα1受容体、セロトニン5-HT2受容体、FP受容体刺激により収縮させた標本においても、DHAが弛緩作用を示すことが明らかとなった。4 血管平滑筋以外の平滑筋の収縮に対する抑制効果についても検討を開始した。現時点では、DHAがムスカリンM受容体を介したモルモット消化管平滑筋の収縮反応に対しても抑制を示す結果が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展しており、取り立てて大きな問題はないと考える。ただし、血管平滑筋以外の平滑筋収縮に対する影響を検討する目的で、主としてモルモットの消化管平滑筋に対する影響の検討を開始したが、モルモットの血管を用いた検討はあまり進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、DHAの血管弛緩作用の機序のひとつとしてKチャネルの活性化を想定しており、主としてこの仮説の妥当性の検証を目的とした薬理学的アプローチを中心にして今後の展開を試みる。 しかし、DHAによってもたらされる血管弛緩が主として血管平滑筋に対する直接作用によるものであることは良いとしても、ここにきて、DHA自身による直接作用以外に、DHAの代謝物の関与も検討する必要が生じてきた。そこで、Kチャネルの関与の検討を進める前に、DHAの代謝物、特にP450エポキシゲナーゼ代謝物の関与の可能性を吟味する目的で、その選択的阻害薬を用いた検討、予想されるP450エポキシゲナーゼ代謝物の薬理作用の検討を行うことも視野に入れて研究を推進する。 また、血管平滑筋以外の平滑筋の収縮に対する影響を明らかにする目的で、消化管平滑筋を用いた検討が進行中であるが、消化管の部位差(胃、十二指腸、小腸、大腸)を検討することにより、過敏性腸症候群に対する薬物治療としての有用性を探る。さらに、膀胱標本を用いた検討を進めることにより、下部尿路機能障害(過活動膀胱)に対する治療薬としての有用性についても吟味する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度は、主としてラット・マウスの動物代や不飽和脂肪酸(DHAやEPA)の購入代金に充てた。消化管平滑筋・膀胱平滑筋の実験では、本研究室のこれまでのデータの蓄積状況を考えるとモルモットの使用が望ましいところであるが、最近はモルモットも価格が高いSPFしか入手できなくなっているため(1匹当たり8000円以上)、初年度は予備検討程度に留め、あえて本格的な実験にまで踏み込んで実施しなかった(モルモットを用いた実験を意図的に制限した)。H24年度以後は、ラット・マウス以外に、モルモットでの実験も積極的に実施する予定にしており、実験動物購入代の支出が増える見込みである。 また、H24年度以後は、作用機序の本格的な検討を行う目的で、DHAやEPAの代謝物・酵素阻害薬・Kチャネル阻害薬など、比較的単価の高いペプチド類・脂質類などの試薬も積極的に購入する必要がある。 さらに、測定機器の面では、現在研究室で保有している機器だけでは実験の進捗に限界があることも判明してきた。そこで、2年目以後の研究の進捗を促進する目的で、測定機器(血管張力測定装置、灌流装置など)の補充も必要と考えている。ただし、機器の選定については慎重に検討する予定にしている。
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