研究課題/領域番号 |
23590116
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
田中 芳夫 東邦大学, 薬学部, 教授 (60188349)
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キーワード | ドコサヘキサエン酸 / エイコサペンタエン酸 / n-3系多価不飽和脂肪酸 / 血管平滑筋 / 血管弛緩作用 / TP受容体 / 気管平滑筋 / 弛緩機序 |
研究概要 |
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は、主として魚介類の油に含有されている不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸;n‐3系)である。DHAやEPAには、脳血栓・心筋梗塞の予防効果や降圧効果など、循環系に対する保護効果が数多く報告されている。しかし、DHAやEPAの血管弛緩作用やその作用機序の詳細に関しては、いまだに不明の点が多く残されている。そこで、本研究では、n‐3系多価不飽和脂肪酸による循環系保護効果に関わる分子基盤の構築を目指すことを最終目的とした基礎的検討を主としてラット摘出動脈標本を用いて行い、以下の新知見を得た。 1 TXA2の安定誘導体であるU-46619にて収縮させた腸間膜動脈標本で検討したところ、大動脈標本とほぼ同様、DHAは他の受容体刺激による収縮よりもTP受容体を介した収縮をより強く抑制した。 2 他方、n‐6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸(LA)は、TP受容体を介した収縮をほとんど抑制しなかった。 3 腸間膜動脈でも、大動脈と同様、内皮由来のNOやPGI2は関与せず、主として血管平滑筋への直接作用によってもたらされると考えられたが、内皮由来過分極因子が関与する可能性を示唆する実験結果が得られた。 4 血管平滑筋以外の平滑筋の収縮に対する抑制効果も検討したところ、モルモット消化管平滑筋の収縮反応に対しては、DHAは劇的な収縮抑制作用を示さなかったが、気管平滑筋では、TP受容体を介した収縮を選択的に抑制する可能性を示す実験結果が得られつつある。 5 大動脈標本でのDHAによるTP受容体選択的血管収縮抑制作用の機序をさらに検討した結果、DHA自身による直接作用以外に、DHAのP450エポキシゲナーゼ代謝物による作用の2つの作用が関与する可能性が示され、それぞれの作用が別の機序によるものである可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展しており、取り立てて大きな問題はないと考える。血管以外に、気管平滑筋においてもDHAがTP受容体を介した収縮反応を選択的に抑制する可能性が見出され、血管で得られた結果の妥当性を強く支持するものとなった。
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今後の研究の推進方策 |
1.血管平滑筋以外の平滑筋での検討……血管平滑筋以外に、消化管平滑筋(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸)、下部尿路平滑筋(膀胱平滑筋)の収縮反応に対するDHAの抑制効果を検討したが、血管平滑筋のTP受容体を介した収縮反応に対する抑制効果と比較すると、それほど劇的な抑制効果は認められなかった。その一方で、気管平滑筋のTP受容体を介した収縮反応に対する抑制効果の可能性を調べたところ、血管平滑筋と同様、DHAがTP受容体を介した収縮をより選択的に抑制する可能性を示す実験結果が得られた。今後は、この実験結果の妥当性についてさらに検証を続ける予定である。 2.血管平滑筋での検討……血管平滑筋のTP受容体を介したDHAの抑制作用の機序を検討した結果、DHA自身による抑制に加えて、DHAのP450エポキシゲナーゼ代謝物による抑制の2つの抑制成分が関与する可能性が示された。今後は、DHA自身による抑制がどのような機序によってもたらされるのか、また、P450エポキシゲナーゼ代謝物による抑制がどのような機序によってもたらされるのか、それぞれの機序の詳細について吟味していく予定である。具体的な可能性としては、DHA自身による抑制はTP受容体遮断によりもたらされ、P450エポキシゲナーゼ代謝物による抑制は複数のKチャネル活性化によってもたらされると推察しており、生化学的実験や電機生理実験によりこの仮説の妥当性を検証する予定にしている。 3.血管内皮の関与の可能性の検討……腸間膜動脈では、内皮由来のNOやPGI2は関与しないが、NOやPGI2とは異なる血管弛緩因子つまり内皮由来過分極因子が関与する可能性を示唆する実験結果が得られた。もしこれが本当であるとすれば、非常に面白い方向に研究が展開するが、今後実験結果の再現性も含めて慎重に検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、実験動物としてラット・マウスを使用する以外に、モルモットの購入も増加して様々な平滑筋に対するDHAの作用を検討した。その結果、モルモット気管平滑筋での抑制作用を新たに見出すことができた。ただし、最近は、モルモットも価格が高いSPFしか入手できなくなっているため(1匹当たり8000円以上)、慎重に吟味して実験計画を立案する必要があったため、モルモットの使用を若干押さえ気味にして、H25年度の実験動物購入費に充てることにした。同様にして、比較的単価の高いペプチド性のKチャネル阻害薬の購入も少し控えめにし、H25年度の試薬代に充てることにした。これにより、未使用額(359,025円)が発生することになった。 H25年度は、気管平滑筋で見出した新しい現象をさらに詳細に解析する予定にしており、ラット・マウスに加え、モルモットも含めた実験動物購入費がさらに増える見込みであり、特に、気管平滑筋を使用する都合上、モルモットの購入費が増える。また、H25年度は、さらに本格的な作用機序の追究を計画しており、DHAのほか、その代謝物・酵素阻害薬・Kチャネル阻害薬などの試薬も積極的に購入する必要がある。さらに、受容体結合実験も予定していることから、TP受容体刺激薬のラベル体などの試薬代への出費も増える。なお、受容体結合実験では、培養細胞を使用する計画を立てており、これに関わる消耗品、培地、抗生物質などの購入費も必要となる。
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