研究概要 |
n‐3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)には、脳血栓・心筋梗塞の予防効果や降圧効果など、循環系に対する保護効果が数多く報告されている。しかし、その機序の詳細には、いまだに不明の点が多い。本研究では、n‐3系PUFAによる循環系保護効果に関わる分子基盤の構築を目指すことを最終目的とした基礎的検討を行い、以下の新知見を得た。 1 DHAとEPAは、TXA2受容体やPGF2α受容体のアゴニストで収縮させたラット大動脈や腸間膜動脈の標本を、他の受容体アゴニストで収縮させた場合よりもより強く弛緩させた。しかし、n‐6系PUFAであるリノール酸(LA)は、そのような作用を示さなかった。大動脈標本、腸間膜動脈のいずれにおいても、DHAとEPAの弛緩作用に内皮由来弛緩因子(NO, PGI2, EDHF)は関与せず、平滑筋への直接作用によるものであることが示された。 2 TXA2受容体アゴニストで収縮させた大動脈標本でのDHAの弛緩作用の機序を追究し、DHA本体以外にDHAのCYP依存性エポキシゲナーゼ代謝物が関与し、その作用機序にATP依存性K+チャネルなどのK+チャネルが関与することが示された。 3 TXA2受容体アゴニストで昇圧させたラットにDHAを静注したところ、血圧の有意な下降が記録され、上述したDHAの血管弛緩作用が血圧の即時的な下降に反映されうることが示された。 4 DHAはTXA2受容体アゴニストによる気管標本の収縮も強力に抑制した。以上の結果から、プロスタノイド受容体を介した平滑筋収縮の抑制はn‐3系PUFAの特徴的な作用であり、過去の疫学的調査で示された魚油やn‐3系PUFAによる循環保護効果の一端を担うとともに、n‐3系PUFAが気管支ぜん息の予防や改善にも効果を発揮する可能性が示された。
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