研究課題/領域番号 |
23590120
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
枝川 義邦 早稲田大学, 研究戦略センター, 教授 (50303607)
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キーワード | 細胞死 / 薬理学 / アポトーシス / マイクロ流体システム / ミクロ薬理学 |
研究概要 |
本研究では、単一の培養細胞における細胞死の位置特異的情報を獲得することを目的として、適したマイクロシステムの開発とそれを利用した検討を行っている。 これまでに、マイクロ流体システムを用いた薬液曝露の実験系と培養皿の底面を有機化合物で修飾することによる培養細胞の生育位置や形態をパターニングする実験系を、当該研究の目的に沿って最適化することを試みてきた。本年度の目的は、それらを用いて細胞死の位置情報を単一細胞レベルで獲得することである。 前年度同様に、生体適合性の高い高分子であるpolydimethylsiloxaneを固化・成形することによって、単一細胞の捕獲・培養を可能にするデバイス内に微小環境を形成した。本デバイス内では、複数個の単一細胞を空間的に孤立化させて培養することができるので、これらに神経成長因子を暴露させることで突起伸展を誘発させ、突起伸長を経時的に観察した。形成した微小環境内で充分な長さの突起を観察した後、層流を形成させた薬液投与、すなわち細胞死を誘発させることが知られるStaurosporine(2 uM)を用いて、突起の先端部から細胞体に向かうマイクロドメインに薬液および細胞培養液を同時暴露させることで細胞に及ぼされる影響を観察した。 用いたStaurosporineは細胞内でアポトーシス性の細胞死を惹起させ、その過程でカスパーゼ3の活性化を誘導することを確認したことから、マイクロデバイス内への誘導を試みたところ、本デバイス内での微小環境においても、従来の培養皿における細胞死の過程に沿った変化が観察された。 そして、マイクロドメインに限局させた薬液暴露を施すことによって、細胞体におけるエフェクターカスパーゼであるカスパーゼ3の活性化を観察できたことから、細胞全体の運命を決める因子の活性化に対して細胞の部分的なマイクロドメインに限局した寄与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の予定では、単一細胞の細胞死における位置情報の獲得が目標であった。これまでに行ってきたマイクロデバイスの最適化や細胞死誘発条件の検討を踏まえて、本研究における微小環境内における細胞の一部分に限局した薬液暴露を実現した観察法によって、細胞全体の運命を決定するメカニズムの惹起におけるマイクロドメインの寄与の大きさを示したことより、おおむね計画通り進んでいるものを判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では当該年度までに、単一細胞の細胞死においてマイクロドメインの寄与が大きな比重をもつことを示してきた。次年度では、その現象の確実さを示し、さらに詳細なメカニズムについての解析を進めることによって、細胞死における位置情報とマイクロドメインの寄与についてのスキームを描いていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請者が当該研究3年目の年度途中において所属変更があり研究環境が大きく変わったことにより、再度研究体勢を構築し、研究を継続するための時間が必要であったため。 当該研究では、本年度までに目標とする現象の観察に成功していることから、次年度では主にこれまでに得られた結果の解析を進めることに研究費を使用する予定である。
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