研究課題
平成24年度では、昨年までに得られた1-N-型イミノ糖であるisofagomine類を用いたβ-glucocerebrosidaseの活性中心における水素結合及び結合安定性試験の結果を、更に発展させる意味でDMDPに代表されるピロリジン型イミノ糖のD体、L体を含む全10種の異性体の合成を行い、これらイミノ糖が各種グリコシダーゼに及ぼす効果について検討を行った。DMDPは、β-glucocerebrosidaseに対してμMオーダーの強いIC50値を示した。一方、鏡像異性体であるL-DMDPは、DMDPに認められたβ-glucocerebrosidaseに対する阻害活性が完全に消失したものの、逆に、α-glucosidaseに対して、IC50値が1.2-5.8 μMを示す強力な阻害活性であった。また、メソ-allo体は、α-galactosidaseおよびα-L-fucosidaseに対して阻害を示すなど、水酸基の配置がこれら酵素に対する選択的な阻害活性を大きく左右する事が示唆された。次に、DMDPがβ-glucosidaseに対し強力な阻害活性を示したことに着目し、 DMDPのC2位ヒドロキシメチル基を持たないDABとその誘導体について、グリコシダーゼ阻害活性を比較した。その結果、DABおよびN-alkyl-DABでは、DMDPに比べ阻害活性が大きく低下したが、1-C- alkyl -DABでは阻害活性の上昇が認められた。そこで1-C-アルキル鎖を順次延長したところ、1-C-アルキル鎖の炭素数増加に伴い、β-glucosidaseに対する阻害活性は増強されることが明らかになった。以上の結果から、DABの1-C-アルキル化はβ-glucocerebrosidaseをターゲットとする新たなファーマコロジカルシャペロンとして機能する可能性が示された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度の成果により、目標であったβ-glucocerebrosidaseの活性中心におけるイミノ糖との水素結合の解析及び結合安定性試験を行うことができた。特に、これまで医薬品開発がほとんど行われてこなかったDMDPに代表されるピロリジン型イミノ糖のD体、L体を含む全10種の異性体の合成を行い、これらイミノ糖が各種グリコシダーゼに及ぼす効果を網羅的に解析できた成果は大きい。本成果は、J. Org. Chem. 77 (18) 7777-7792, 2012に掲載され、簡便かつ系統的なピロリジン型イミノ糖の合成と、断片化していたグリコシダーゼに対する阻害および選択性に関する情報を集約し、医薬品応用の可能性に言及した点を高く評価されている。また、同様に平成24年度では、D-マンノースから8種類のα-homonojirimycinを網羅的に合成し、グリコシダーゼに対する阻害選択性の評価を行い、その成果をOrg. Lett.14(8), 2050-2053,2012に投稿するとともに、アゼチジン型イミノ糖の有用性の評価も行えた(Org. Lett. 14 (8) 2142-2415, 2012, Org. Lett. 14 (16) 4174-4177, 2012).
今年度行ったピロリジン型イミノ糖を用いた解析結果から、D型のDMDPはβ-glucocerebrosidaseに対してμMオーダーの強いIC50値を示すとともに、高い親和性を示すことが明らかになった。また、タンパク- リガンドinduced fit docking 解析から、これらピロリジン型イミノ糖は、1-N型イミノ糖であるisofagomineとは、明らかに異なる様式で活性中心で結合していることが示唆された。そこで、次年度では、これら結果を更に発展させ、isofagomine とβ-glucocerebrosidaseとの間で認められるC3 位OH基とAsp127 およびTrp179 の水素結合等が、DMDPでも認められるかなど、より詳細な酵素-リガンド間の相互作用を解析して行きたい。また、組織への移行性も考慮した更なるデザインも行う予定である、具体的には、本年度の成果としてDMDPは、N-アルキル化により、β-glucocerebrosidaseとの親和性が減弱する一方で、1-C-アルキル体では親和性の向上が認められた。この結果を踏まえ、C1位のアルキル化が、β-glucocerebrosidaseとの結合に与える影響についてタンパク- リガンドinduced fit docking 解析を行うとともに、単純なアルキル化ではなく、芳香環を始めとする他の置換基を導入した場合の効果についても実験を行う予定である。すでにゴーシェ病モデル細胞としてN370SおよびL444P変異を持つ線維芽細胞を準備しており、これまで行ってきた一連のイミノ糖について、その効果を評価していく予定である。
平成25年度は、引き続きβ-glucocerebrosidaseに対し高親和性を示す化合物の探索と構造活性相関の検討ならびにイミノ糖の結合部位および結合様式の解析とシミュレーションデザインをおこなう。従って、化学合成し、ライブラリーを作製するための薬品およびガラス器具等、必要な経費を配分する。また、β-glucocerebrosidaseとの親和性を測定するために必要な酵素、基質など酵素化学的研究が十分に行えるよう経費を配分する。さらに、ゴーシェ病患者由来線維芽細胞を用いたシャペロン効果の評価等、細胞生物学的なデータを集積するために必要な実験経費を配分する。今年度は、当初計画より早くピロリジン型の候補化合物の絞り込みが行えたため、次年度使用額が生じたが、これらを細胞培養に必要なプラスチック器具類や酵素、細胞、ラベル化試薬など、細胞生物学的な実験が十分に行えるような経費配分とする。また、研究代表者および研究分担者が集まり、研究成果をまとめる際に必要な旅費として使用する予定である。
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