研究概要 |
癌の治療を困難にしている一因として腫瘍細胞の転移がある.腫瘍細胞の転移に関与する蛋白として,上皮間葉転移に関与する転写因 子Snailと,細胞の移動に関連するプロテアーゼADAM10およびADAM17が見いだされている.これらの蛋白は,機能発現に亜鉛が必須であり,亜鉛配位子を蛋白に作用させ,蛋白から亜鉛を引き抜く,あるいは蛋白中で亜鉛に配位させることができれば,その機能を阻害することができると考えられる.本研究では,我々が開発した亜鉛配位子にこれらの蛋白を特異的に認識する側鎖を連結した化合物を設計・合成することで癌の浸潤・転移を阻害する新規阻害剤の創製を目的とした. 今年度は,ADAM17の認識部位としてアセチレンを持った側鎖の合成を検討し,配位子の側鎖アミノ基へスルホンアミドを形成することで連結することができた.また,片方の側鎖にシステインを持つ配位子の合成に着手し,チオールをt-ブチル基で保護した化合物を合成することができた.この化合物のカルボキシル基を利用することで,これまでに合成したものと異なる位置に認識部位を導入することが可能になった.現在,両化合物のt-ブチル基の脱保護について,従来の方法に加えて一段階で直接脱保護する方法を検討中である. 今後,合成したそれぞれの化合物について活性試験を行い,それらの結果を基にすることでより強力な活性を持つ化合物の設計・合成をすることができると期待される.
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