日本は急速に高齢化社会に移行しており、認知症患者の増加は国家の基盤を揺るがす社会問題となっている。アリセプトなどいくつかの薬剤が認可されているが、これらは対症療法剤であり、未だ根本的治療薬は開発されていない。本研究はアルツハイマー病克服を目標とし、発症の原因とされているアミロイドβペプチド(Aβ)の産生に関与するβ-セクレターゼ(BACE1)およびAβ凝集の阻害剤を開発することを目標とする。そのためin-silico創薬における新しい方法論の開拓から、アルツハイマー病の発症メカニズム解析研究に有用なケミカルバイオロジー研究用ツールまで統合的かつ先駆的研究を行い、アルツハイマー病の根本的阻害剤を複数創製することにある。 ① 低分子BACE1阻害剤の創薬研究 BACE1のArg235側鎖と阻害剤の相互作用は阻害活性発現に重要な意味を持っており、本研究代表者はstackingやσ-π相互作用のような微弱な量子化学的相互作用が重要であることを見出した。そこで、Arg235側鎖との相互作用に着目して阻害剤の最適化を進め、KMI-1303のような強力な低分子非ペプチド型阻害剤を見出した。また、ペプチドとして世界最小の分子サイズを有する阻害剤を設計した。これは次世代BACE1阻害剤開発のためのリード化合物として有用であると思われる。 ② Aβ凝集阻害剤 既知のAβ阻害剤はAβの特定の部位を認識して凝集阻害すると考えられるが、Aβにはモノマー、オリゴマー、フィブリルなど様々な会合状態による分子種が存在し、これらの化合物は神経細胞毒性があるとされているAβオリゴマーを特異的に認識しているわけではなく、薬物としての評価のあり方に問題点が残る。本研究代表者は特定の立体構造のAβコンホマーを特異的に認識する阻害剤を設計した。本阻害剤は薬物としてだけではなく、凝集メカニズム解析用ツールとして有用である。
|