研究概要 |
アーユルベーダ薬物サラシア由来のチオ糖スルホニウム塩、サラシノール(1)は糖尿病治療薬アカルボースやボグリボースに匹敵する強力なα-グルコシダーゼ阻害作用を示す化合物である。1が単離されて以来、構造活性相関研究が国内外で活発に行われ、これまでに多くの類縁体が創生されてきた。近年の1と酵素との複合体のX-線結晶構造解析またはin silico docking studyにより、1の3'位硫酸エステル部は、酵素との親和性に関与せず、その近隣に位置する酵素のアミノ酸 Phe757, Tyr299, Trp406の疎水性残基によって圧迫を受け、酵素内での側鎖の安定化を妨げていることが示唆された。これまでに我々は、1の親水性の高い硫酸エステル部を疎水性のベンジル基に置換した類縁体 2 を合成し、ベンジル置換体が1を凌ぐ強力なmaltase阻害活性示すことを明らかにしている。そこで、本年度では、2 の芳香環上にメチル基、クロロ基、ニトロ基、トリフルオロメチル基などをもつスルホニウム塩 (3)を合成し、その阻害活性について評価した。いずれの化合物もサラシノール (1) を凌ぐ強力な maltase および sucrase 阻害活性を示すことが判明した。また, 置換基の種類に関わらず, オルト位に置換基をもつスルホニウム塩が、相当するメタおよびパラ置換体に比べ、maltase および sucrase に対して強い活性を示す傾向にあることも判明した. 中でも o-ニトロ置換体の maltase 阻害活性は, in silico 計算の予想を上回り、著しく増強され salacinol (1) の約40倍の活性に、また、ボグリボースの約 10 倍に達した。さらに、同化合物の sucrase に対する阻害能も顕著に増強され, 1 の40倍の活性を示すことが判明した。
|