標的受容体に存在する重要なアミノ酸残基を目指した構造修飾として,2つの誘導体化を進めた.1つは,受容体リガンド結合領域に存在する唯一のアルギニン残基を志向する官能基として,カルボキシ基またはそのバイオイソスターを導入したビタミンD誘導体の合成を行った.ビタミンD特有のトリエン部構築は,鎖状のA環部前駆体とCD環部を別途合成して後に,Pd触媒を用いてカップリングする収束的手法を用いた.A環前駆体の効率よい合成法確立を目指し,2α位への側鎖導入,そのエピマーである2β位への側鎖導入に続いて,1α位ヒドロキシ基の代替となる官能基を有するビタミンD誘導体合成が完了した.さらに,カルボキシ基導入の中間体であるシアノ基についても種々の側鎖長を持つ誘導体を合成した.活性評価はウシ胸腺VDRを用いた結合能試験を行った.ウシ胸腺VDRの入手が困難となり,新規活性法の確立に時間を有したが,新規VDRリガンドの結合能は側鎖末端官能基の種類に応じ,炭素数への依存性が観測できた.もう1つは,異なるアミノ酸残基をターゲットとする誘導体として,A環部へのスピロオキセタン構造の導入を試みた.ビタミンD受容体A環部近傍は親水性アミノ酸残基群からなり,重要な水が内包されていることが知られる.この空間を埋める特殊な官能基として,一般にはカルボニル基のバイオイソスターとして知られるスピロオキセタンをA環2位に導入した誘導体4種を合成した.オキセタンはジェミナルジメチル基の性質をも合わせもち,化合物の水溶性を上昇させ,代謝による修飾を受けにくいことが知られる.前年度の合成に引き続いて,完了した誘導体のVDR結合能を調べたところ,2位スピロオキセタンは対応するジメチル誘導体に比べて,親和性上昇が見られた.1β体においても親和性が保持されたことから,オキセタンが1α位ヒドロキシ基の代替としてはたらくことが示唆された.
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