研究課題/領域番号 |
23590145
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田川 優子(坂井優子) 東京大学, 医科学研究所, 助手 (40178538)
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キーワード | インフルエンザウイルス / 薬剤耐性 / サーベイランス / 抗インフルエンザ薬 / 新型インフルエンザ |
研究概要 |
2009年にメキシコで発生した豚インフルエンザは新型インフルエンザパンデミックとなり世界を震撼させたが、現在では季節性インフルエンザと同様の伝播性・病原性であることがわかり、取扱の厳重さは解消された。しかし、追加された季節性ウイルス(H1N1 pdm)として今後も流行を続けていくと考えられる。現在、多くの抗インフルエンザ薬が開発され、新型インフルエンザの治療にも効果的であったが、多用・乱用によりウイルスが薬剤耐性を獲得することは必然であり、これをサーベイランスするために研究を行った。 今年度は昨年度に報告した2010/11シーズンにインフルエンザにり患した患者から採取した薬剤投与前後の咽頭ぬぐい液等臨床検体中のウイルスの薬剤耐性変異の探索の詳細な解析を進めた。昨年度はダイレクトシークエンス法により変異を探索したが、患者の体内でわずかに生じた変異は見逃してしまう可能性がある。そこでRT-PCR産物を一旦クローニングし、クローンを10個以上解析し、変異の探索および変異の割合を調べた。 その結果、オセルタミビル投与の16症例中5例で、ペラミビル投与の23症例中3例でNA蛋白質275番目がヒスチジンからチロシンに変異していることを見出した。これらの患者はいずれも薬剤投与前には変異は存在せず、投与後3日目以降で変異率が上昇していた。この時の変異ウイルスを単離し、薬剤感受性を調べたところ、オセルタミビルにもペラミビルにも感受性が落ちていた。なお、ラニナミビル投与の7例に変異は見つからなかった。 なお、検体中のウイルス力価を測定し、薬剤の抗ウイルス効果を調べたところ、いずれの薬物もH1N1pdmに効果的であることが分かった。 抗インフルエンザ薬はH1N1pdmに対し、解熱や抗ウイルス効果については効果的であるが、耐性ウイルスの出現頻度も高く、今後もサーベイランスの必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2010/11年シーズンはH1N12009、H3N2、B型ともに流行し、協力医療機関より多くのインフルエンザウイルスにり患した患者から採取した薬剤投与前後の咽頭ぬぐい液等臨床検体を大量に得ることができたため、昨年度はダイレクトシークエンスによる解析を行ったが、今年度はクローンシークエンス法によって、より詳細な解析を行うことができた。検体中のウイルス力価や薬剤感受性の解析も進み、抗ウイルス剤の効果についての成果も大きく、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きインフルエンザり患患者の検体の解析を継続する。2011/12シーズンについては2つの医療機関から300検体ほど集まっている。2012/13シーズンについても検体採取の要請を行っている。集まった検体は、細胞における分離と同時に検体中のウイルスRNAを抽出する。耐性変異の解析は細胞で分離したウイルスではなく、検体中のウイルスを直接RNA抽出することによって、患者体内でのウイルスの性状を解析する。ただし、送付される検体数によっては以下の解析の手順を変更する予定である。ウイルスRNAからRT-PCR産物をいったんクローニングして個々のクローンを解析する方法はわずかに発生した耐性変異を知るためには有効であるが、多くの検体を解析するにはダイレクトシークエンス法が有効で、耐性変異部分の泳動パターンから変異の有無を判断することによって耐性変異をいち早く検出し、報告する予定である。 また、ウイルスがどのように薬剤耐性を獲得するのか、また、その病原性はどのように変化するのかなど、薬剤耐性機構を解明することを目的に、分離ウイルスの増殖能の比較、薬剤感受性の比較、レセプター感受性の比較等の性状解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に引き続き、協力医療機関からの臨床検体を解析し、薬剤耐性のサーベイランスを行う。それに必要な、検体の輸送費、塩基配列解析に必要な試薬類、ウイルス性状解析に必要な細胞の培養関係の試薬や器具などの消耗品、協力医療機関との研究打ち合わせや成果発表に必要な旅費として使用する計画である。
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