研究課題/領域番号 |
23590147
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
田中 幸枝 福井大学, 医学部, 助教 (10197486)
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研究分担者 |
藤井 豊 福井大学, 医学部, 教授 (80211522)
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キーワード | NADase / SNI |
研究概要 |
A群β溶血性連鎖球菌(Group A β-hemolytic Streptococcus:GAS)は,経気道あるいは接触性にヒト-ヒト感染する.最も一般的には学童期にみられる咽頭炎であるが,蜂巣炎などの化膿性疾患や敗血症,外毒素性の猩紅熱,続発症と呼ばれる急性糸球体腎炎やリウマチ熱などがあり病像は実に多彩である.また軟部組織壊死を伴い,敗血症性ショックを来たす劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症候群)は経過が速くかつ重篤な病態であるためその対策は急がれる.このためGASに特異性が高くかつ効果の高い治療法の開発は大変重要な課題である.さらに本研究では,耐性菌出現頻度が低く長期間の使用に耐えうる治療法を開発するために,GASが持つ分泌毒素NADaseを標的とする抗菌薬の開発を試みた.NADaseは,GASのもう一つの分泌毒素であるSLO(Streptolysin O)の働きによって宿主細胞内に輸送され宿主細胞のNAD+を分解して細胞障害を誘導する.これに対して,GAS自身は菌体内に発現するSNI(Streptococcal NADase Inhibitor)と複合体を形成するためNADase活性が抑制(中和)され細胞障害を免れる.そのため,STIとの複合体を解消してやれば,NADase活性の発現が誘導されGAS自身の自殺が誘導ができると考えられた.上記目的を達成するために平成24年度は,Craig L. Smithらが推定したSNI-NADase間相互作用に重要なアミノ酸の情報を参考に, NADaseの中和に影響を与えることが期待されるSNIとNADaseのdominant negative変異体を作製し,それらの効果を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Craig L. SmithらはNADaseのX線構造解析データから(Structure 19,192-202,2011),SNI(Streptococcal NADase Inhibitor)がNADase活性を中和するための相互作用には,SNIの持つ2箇所のループ領域の8個のアミノ酸が重要であり,さらにそれらと相互作用するのはNADase上の11個のアミノ酸であると推定した.本研究ではこの情報をもとに,SNIとNADaseのそれぞれの領域内にさまざまな変異を施したdominant negative変異体を作製し中和活性への影響を検討した.その結果,予想に反して,① 変異体の多くは易分解性であった, ②易分解性でない変異体の多くは期待したdominant negative効果(中和抑制効果)が認められなかった,③ 一部に弱い中和抑制効果示す変異体が認められた, という結果であった.この①の結果は,相互作用に関わる領域は蛋白質の安定性に重要な領域である,あるいは相互作用に依存して分子の安定性が保持されている,そして②の結果は,競合阻害効果が優性ではない,ためであると考えられた.このように,相互作用領域内に変異を導入したdominant negative変異体は,期待した中和抑制効果が弱いことから,研究計画は当初予定していたより遅れている.現在,弱いながらも効果の認められた変異体について,その作用機序を解析し対応策を検討中である.
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今後の研究の推進方策 |
1.まず,弱い中和抑制効果を示した変異体についてその作用機序を解析し,その抑制効果を増強させる方策を検討する.具体的には効果のある変異を複数導入した場合と単独の場合とを比較検討する. 2.24年度に行った相互作用領域内のdominant negative変異体の中和抑制効果が予想外に低いので,SNIとNADaseが相互作用(複合体形成)しても中和能力を示さない変異体を検討する.すなわち相互作用領域外の領域に変異を導入したdominant negative変異体による中和抑制効果を検討する. 3.既に考案しているSNI,NADaseのsiRNAによるNADase阻害活性を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
①siRNA実験のための遺伝子導入試薬、②③変異体作製のための遺伝子クローニング用試薬、制限酵素、シーケンシング用試薬、バッファー類、ゲルなどの消耗品、および、タンパク質発現実験のためのベクター、培地類、特異的抗体、精製用カラム、検出試薬など、および①~③研究全般に必要なプラスチック器具類の消耗品費に研究費を使用する計画である。
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