研究概要 |
生体異物を解毒・活性化する「異物代謝酵素」の機能の個人差に着目し、ヒトを取り巻く化学物質のリスク評価法の開発を目指す。(1)ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)や哺乳動物由来の不死化細胞における異物代謝酵素の環境的要因による変動メカニズムを分子レベルで解明する。(2)メタボロミクス手法を用いて異物代謝酵素の補因子の生合成経路に関与する生体内物質の化学物質による量的変動を網羅的に解析する。(3)モデル化学物質に内分泌化学物質などを用いてそのin vitro代謝の遺伝的要因に基づく異物代謝酵素の機能変動を多角的に解析・整理して各個人の体質を考慮した化学物質のリスク評価法を開発する。 本年度は、ヒト肝癌由来のHepG2細胞におけるフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)及びその加水分解反応により生成するモノ(2-エチルヘキシル)フタレート(MEHP)によるシトクロムP450(CYP)及びその発現制御を担う転写制御因子(NR)のmRNA変動を分子種レベルで詳細に検討した(CYP: 1A1, 1A2, 1B1, 2A6, 2C8, 2C8, 2C19, 2D6, 2E1, 3A4, 3A5; NR: AhR, CAR, GR, PXR, RXR)。リアルタイムRT-PCR解析の結果、MEHP処置細胞のCYP1A1、CYP2B6及CYP3A4 mRNAレベルは、DEHP処置細胞のそれぞれ約4倍、6倍及び3倍であった。また、MEHP処置細胞におけるAhR、CAR及びPXR3 mRNAレベルもDEHP処置細胞のそれぞれ約3倍、4倍及び12倍高かった。しかし、CYP1A1、CYP2B6及CYP3A4以外のCYP分子種のmRNA発現レベルは、MEHP処置細胞の方が低かった。これらの結果から、DEHPの代謝的活性化は各CYP分子種の著しい発現変動により惹起される可能性が示唆された。
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