N-ニトロソ化合物はヒト体内でも生成する強力な発がん物質であり、ヒトがんの原因として重要な位置を占める。N-ニトロソジアルキルアミンはシトクロムP450によってα-水酸化を経由して変異原性および発がん性を示す。酸化的代謝モデルとして修飾Fenton試薬 (Fe2+-Cu2+-H2O2) を用いてN-nitroso-N-methylbutylamine (NMB) を処理したところ、直接変異原として5-methyl-5-nitro-1-pyrazoline 1-oxide (mutagen X) を同定したことから、α-水酸化体以外の活性体の存在をすでに明らかにした。本研究では、NMBの同族体であるN-nitroso-N-methylpropylamine (NMP) を修飾Fenton試薬で処理したときに生成する変異原を単離し、構造決定を試みた。一方、NMBから同定したmutagen Xの変異原性発現に至る経路の解明を目的とし、pyrazoline骨格をもつ類縁体を合成し、変異原性発現に及ぼす構造の影響を検討した。 NMPを修飾Fenton試薬で処理する際にNOを添加することで変異原活性が上昇したことから、NMPはNMBと同様の経路で活性化され、変異原を生成すると考えた。NMPがNMBと同様の機構で変異原を生成する場合、変異原として5-nitro-1-pyrazoline 1-oxideの生成が予想される。NMPから生成した変異原の1H NMRを測定したところ、環構造をもつシグナルを確認し、5-nitro-1-pyrazoline 1-oxideが生成している可能性を示した。 一方、Mutagen Xのもつpyrazoline骨格を有する化合物の変異原性に関する報告がないため、種々のpyrazoline類を合成して変異原性を評価することで、変異原性発現に至る経路を検討した。環内窒素原子がオキシド化されていない化合物の変異原活性が非常に低かったことから、pyrazoline骨格自身は変異原性発現に影響せず、pyrazoline骨格がオキシド化されることが変異原性発現に重要であることが分かった。
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