研究課題/領域番号 |
23590154
|
研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
大野 修司 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (20233223)
|
キーワード | HSD11B2 / HSD11B1L / SCDR10B |
研究概要 |
ヒト胎児期の胎盤栄養膜中に発現し、母胎から胎児へのcortisol曝露から胎児を保護していると考えられるHSD11B2は、NAD+-依存的にcortisolからcortisoneへの代謝を触媒する。本研究での第1ターゲットはこのHSD11B2分子であり、これまでにヒトHSD11B2発現ベクターをHEK293細胞にトランスフェクションし、72 hr後の培養液中に [4-14C]cortisolを添加することで、対応するcortisoneへの代謝を確認した。乳ガン由来細胞株であるMCF-7もHSD11B2を発現しており、培養細胞メディウム中に [4-14C]cortisolを添加することで、同様にcortisoneへの代謝を確認した。MCF-7ではHSD11B2の転写がPKAを介したシグナル伝達系で誘導される一方で、PKCを介したシグナルで抑制されることが知られており、HSD11B2の転写調節を指標とするのに適した細胞系であることがわかった。近年、生体内でのcortisol代謝に関与する新規酵素として、Type3型HSD11BアイソザイムであるヒトHSD11B1L (SCDR10B) の脳内での発現が報告された。この、ヒトHSD11B1Lの発現量をReal-time PCRで定量する系を構築し、ヒト生体内における発現分布を調べたところ、ヒト小脳および海馬領域に極めて多く発現していることが判明し、さらに発現レベルはそれほど高くはないものの精巣、腎臓、卵巣、胎盤、副腎等のステロイド産生または標的組織にも比較的広範囲に発現していることが明らかになった。ヒトHSD11B1Lには多くのトランスクリプトパリアントの存在が報告されており、今後さらに活性発現との関連性を検討する必要があるが、このHSD11B1Lも第2のターゲットとして検討して行く必要性を確認するに至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒトHSD11B2アイソザイムをHEK293細胞中にトランスフェクションし、酵素活性発現を確認で来たことから、酵素活性レベルでの環境化学物質の影響を検討して行くことになるが、可能であればHSD11B2の安定発現株を構築しその細胞を用いて影響を検討する方が、より安定した阻害結果を得ることが出来ると考えられる。そのため、トランスフェクション後の細胞にG418を添加し、HSD11B2の安定的発現能を持つHEK293細胞のスクリーニングを行っている。本来であれば24年度からスクリーニングを開始する予定であったが、この安定発現株の作成およびMCF-7細胞を利用した基礎的条件検討に時間を消費したため、次年度から順次スクリーニングを開始する予定でいる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の予算残額として4652円が生じ、平成25年度に繰り越すことにしたが、これは敢えて0円に合わせなかったための額であり、ほぼ予定通り全額使用したものと考えている。今後、まずはHSD11B2の酵素活性レベルでの阻害を検討していく。HSD11B2活性の阻害薬としてよく知られ、また近年、胎児の発育不全との関わりも懸念されているグリチルリチンやグリチルレチン酸は、甘草の生薬成分であり食品、医薬品中に大量に使用されている。そこでこれらグリチルリチンをポジティブコントロールとして使用するのはもちろんであるが、生薬抽出物も検討リストに加えることで、HSD11B2阻害物質探索結果に幅を持たせて行きたいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
繰越金はゼロではないが、ほぼゼロと同等であるという認識の下に、特に変更無く使用させていただく予定である。
|