研究概要 |
近年、糖尿病による合併症発症の要因の一つとして、血糖による生体分子の糖化が注目されている。グルコースなどの還元糖とアミノ基を有するタンパク質によって引き起こされる非酵素的反応 (メイラード反応) は生体内における代表的な糖化反応の一つであり、これによって生成する糖化産物(glycation products)は、生体内に数十種類存在すると言われている。これら glycation products と糖尿病合併症との関連性については不明な点が多いが、その解明は、合併症発症機構の解明に向け有益な情報を与えると考えられる。我々は、糖化反応の中間体であるdihydropyrazine類(DHPs)をモデル化合物として、哺乳動物細胞に対する影響を観察した。これまでの検討から、メチル化DHPである2,3-Dihydro-5,6-dimethylpyrazine (DHP-1)、 2,3-Dihydro-2,5,6-trimethylpyrazine (DHP-2)、および 3-Hydro-2,2,5,6-tetramethylpyrazine (DHP-3) が、ヒト肝癌細胞であるHepG2細胞に対して細胞障害性を発揮することが明らかとなった。そこで、DHPによる細胞障害の発症機構を明らかにするため、細胞内の還元型/酸化型 glutathione 濃度を測定し、その比(GSH/GSSG)を比較した。細胞障害が観察された曝露条件(各DHP 1 mM, 24 時間曝露)において、細胞内の還元型 glutathione 濃度に変化は認められなかった。これに対し、酸化型グルタチオン濃度は、DHP-3 処理においてのみ顕著に増加した。以上の結果から、DHP-3 による細胞障害の発症機構には、細胞内グルタチオンバランスの崩壊が関与している可能性が考えられた。
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