研究課題/領域番号 |
23590162
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研究機関 | 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) |
研究代表者 |
椎崎 一宏 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), その他部局等, 研究員 (20391112)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | AhR / リガンド / βカテニン / 大腸がん |
研究概要 |
AhRはダイオキシンを始めとした化学物質をリガンドとして認識し、遺伝子発現を調節する転写因子であると共に、E3ユビキチンリガーゼの構成因子としてタンパク分解に関与している。近年、AhRがβ-catenin分解を介して大腸がんを抑制することが報告された。この経路はAhRリガンドに依存的なため薬物制御が可能と考えられ、大腸がんの新規薬物療法または予防法が開発できることが期待できる。本研究では生体内または天然物由来の「安全な」物質から、臨床応用可能なAhRリガンドを探索することを目的とした。 23年度はまず、AhRリガンドによる転写調節活性とタンパク分解活性の評価に用いる細胞株の検討を行った。大腸由来細胞(DLD1、Caco-2)および陽性対象として肝臓由来細胞(HepG2)を用いて実験を行った結果、DLD1細胞では転写活性化作用がHepG2に比べて著しく低く、アッセイには不向きであった。Caco-2では高い転写活性化を示したが、実験系として非常に不安定であったため、安定形質転換株の作成を行っている。一方、β-catenin分解の指標となるTOPFLASHアッセイを十数種の大腸がん由来細胞を用いて行ったが、AhRリガンドによる抑制作用はいずれの細胞においても認められなかった。この結果は既報とは異なるため、実験条件の検討ならびにタンパクレベルでのβ-cateninの定量化を行っている。 また、簡便なAhRリガンド活性の測定のため、ヒトAhRを発現するレポーターアッセイ酵母株を作成した。ホスト酵母の細胞透過性や薬物排出機能を改変したところ、極めて高感度のアッセイ酵母株を作成することに成功した。臨床応用可能なAhRリガンドの探索のため、トリプトファン代謝物のアッセイを行った結果、内因性リガンド候補とされるキヌレニンにはリガンド活性はみられず、キヌレン酸に活性が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の採集目的は臨床応用可能なAhRリガンドの探索である。初年度の目標はリガンド探索のための簡便なアッセイ系の樹立である。現在までに酵母を用いたアッセイ系を開発し、さらに数種の遺伝子破壊によりリガンド応答性を極めて鋭敏に改良した。さらに、そのアッセイ酵母の利用により、動物細胞では代謝速度の高さゆえに同定が困難なトリプトファン代謝物のリガンド活性を検出できたことは、このアッセイ系の有用性を具体的に示したと考えられる。これらの事から、研究計画は順調に進んでいると認識している。 一方、大腸がん由来細胞を用いた実験では、既報のデータをトレースすることができず難航している。現在のところ、様々な条件検討を重ねているものの類似のデータは得られていないため、上記酵母アッセイ系の進捗と相殺し、おおむね順調であるが当初計画以上の進展はないと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
作成した酵母アッセイを用いて、天然物および生体内物質についてAhRリガンドのアッセイを行う。生体内物質として腸内細菌による代謝生成物を対象に、マウスの消化管内容物、特に盲腸内容物を出発材料にしてAhRリガンドの探索および力価測定を行う。しかしながら研究代表者の所属機関にはHPLC等の、リガンド候補物質の分離精製のための設備・機器が不十分であるため、外部機関で実験を行うことを計画している。 培養細胞を用いたβカテニン分解系の評価について、対象データを作成した研究室が閉鎖されてしまったため、今後は実験の再現が難しい可能性がある。そこで培養細胞でのアッセイの代わりに、酵母ツーハイブリッド法によるE3ユビキチンリガーゼ複合体形成を指標にしたアッセイ系の作成を試みる。具体的にはAhRとCUL4BのAhRリガンド依存的な結合を酵母内で再現することを目標にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度研究費は23年度と同様に細胞培養試薬、酵母培養試薬、遺伝子工学用試薬を購入に充てる。次年度は内因性リガンドの抽出源としてマウス消化管内容物を得るため、実験動物の購入ならびに飼育に研究費を使用する。また上記、外部研究施設における実験および打ち合わせに関する旅費を今年度は支出する。さらにリガンド候補物質の分離精製が成功した場合、対象物質の構造決定を外注する場合においては、その費用が必要となると考えられる。
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