研究課題/領域番号 |
23590167
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
藤村 成剛 国立水俣病総合研究センター, 基礎研究部, 室長 (20416564)
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研究分担者 |
臼杵 扶佐子 国立水俣病総合研究センター, 臨床部, 室長 (50185013)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メチル水銀 / 選択的神経細胞障害 / マイクロダイセクション |
研究概要 |
本研究の目的は、メチル水銀による選択的神経細胞障害の決定因子を確定し、メチル水銀中毒の診断、予防および治療において有益な情報を得ることである。そのためにマイクロダイセクション装置を用いて、メチル水銀毒性の発現する部位と発現しない部位について個々の細胞を分離し、選択的神経細胞障害に関与する可能性のあるmRNA量について解析を行うものである。本年度は、その第一段階としてラット小脳についての検討を行った。小脳神経細胞には主に3種類の神経細胞(顆粒細胞, プルキンエ細胞, 分子層細胞) が存在する。メチル水銀曝露によって、成人脳においては小脳の顆粒細胞に特異的に神経細胞死が生じる。この現象は実験動物であるラットにおいても再現できる。今回、ラット小脳の凍結切片を作成し、mRNA回収に影響を与えにくいトルイジンブルー染色を行い、ラット小脳の3種類の神経細胞を分離回収し、mRNAを抽出することに成功した。各種細胞の分離回収には、本年度9月に当研究センターに導入した新型のマイクロダイセクション装置(LEICA, LMD7000) を用いた。まず始めに、各神経細胞のGPx-1(グルタチオンペルオキシターゼ, 酸化ストレス防御に関与する酵素)の各神経細胞におけるmRNA発現量について検討を行った。その結果、他の神経細胞(プルキンエ細胞, 分子層細胞) と比較してメチル水銀毒性に対して脆弱(メチル水銀曝露によって顕著な神経細胞死が生じる) な顆粒細胞において、他の神経細胞よりもGPx-1 mRNA含量が少ないことが明らかになった。この結果は免疫組織染色によるGPx-1蛋白質の分布と一致した。以上のことから、メチル水銀による顆粒細胞の脆弱性にGPx-1発現量の少なさが関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの検討によって、マイクロダイセクション装置を用いてラット小脳の各神経細胞(顆粒細胞, プルキンエ細胞, 分子層細胞) を分離回収後、mRNAを抽出することに成功した。各神経細胞のGPx-1 mRNA発現量について検討を行った結果、他の神経細胞(プルキンエ細胞, 分子層細胞) と比較してメチル水銀毒性に対して脆弱(メチル水銀曝露によって顕著な神経細胞死が生じる) な顆粒細胞において、他の神経細胞よりもGPx-1 mRNA含量が少ないことを明らかにすることができた。本年度の目標は、メチル水銀による小脳における選択的神経細胞障害の決定因子を探求することである。今回の検討において、酸化ストレスの防御因子の一つであるGPx-1がメチル水銀の神経毒性に対する防御因子の一つであることを明らかにできたことは、一定の成果といえると考える。しかしながら、メチル水銀による神経毒性に対する防御因子は数多く存在することから、GPx-1以外の因子についても、今後、検討を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの検討によって、メチル水銀曝露による小脳顆粒細胞の選択的神経細胞障害がその防御因子であるGPx-1の不足に起因することが示された。しかしながら、このような因子毎の検討では網羅的な因子解析を行うには限界がある。そこで、マイクロダイセクション装置を用いて得られた各種細胞からのmRNAについて、マイクロアレイを用いた網羅的な因子解析を行う予定である。マイクロアレイの解析項目は神経変性に関与する遺伝子群 (抗酸化酵素, Ubiquitin-proteasome経路, Autophagy-lysosome経路, 神経栄養因子等) を予定している。上記の方法を用いて、小脳神経細胞だけではなく、大脳, 海馬, 末梢神経系についても解析を行う予定である。マイクロアレイによって特定因子の絞込みを行った後、定量PCRによって正確なmRNA含量を測定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、実験動物(Wistarラット: 3千円X30匹=9万円, C57BKマウス: 2千円X30匹=6万円) を使用する。次にメチル水銀中毒モデルを作成した後、組織学的検討を行うが、その際に抗体 (13万円) およびその他消耗品(包埋剤, スライドグラス, カバーグラス, 溶媒, カッティングブレード, 染色液, 免疫染色キット) (7万円) を使用する。マイクロダイセクション用の切片には専用の凍結切片を作成しなければならないので、上記とは別の消耗品(包埋剤, フォイル付きスライドグラス, 染色液, 免疫染色キット) (5万円) も使用する。また、mRNA発現を網羅的に検出するためにマイクロアレイ解析(外注) に50万円を使用する。さらに、mRNA発現量の正確な定量のためにmRNA抽出キット(10万円)、cDNA作成キット(10万円)、PCRキット(5万円) およびその他消耗品(PCRプライマー, PCRチューブ等) (5万円) を使用する。
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